世界人口は2050年に97億人に達すると予測されていて、食糧生産を7割増やす必要があると国際連合食糧農業機関 (FAO) は指摘しています。
肉の生産は土地や水がたくさん必要になることからそこまでのペースで増やすことはできず、その代わりとして人工培養肉の研究が盛んに行われています。
この記事では、培養肉の2020年時点での現状を簡単にまとめました。
培養肉の作り方
人工培養肉は、通常の肉よりもはるかに少ない資源で生産することができます。エネルギーは7-45%、土地は99%、水は96%削減でき、さらに発生する温室効果ガスも80-96%も減らすことが可能です (Environmental impacts of cultured meat production. Environ. Sci. Technol. 2011)。
人工培養肉は、動物細胞を培養して増やし栄養素や成長因子などを加て分化させることで得られます (Bringing cultured meat to market: technical, socio-political, and regulatory challenges in cellular agriculture. Trends Food Sci. Technol. 2018)。
使われるのは主に骨格筋細胞をベースにして、脂肪を加えるために脂肪細胞や、結合組織を再現するために線維芽細胞・軟骨細胞などを混ぜています。
人工培養肉は、自己組織化法と足場法の2つの主要な生産システムで作られます。自己組織化法では、高度に構造化された肉を生産するために、動物の筋肉組織が必要になりますが、足場法では筋芽細胞をマイクロキャリアビーズなどの足場上で増殖させ、筋線維に分化させて筋肉にしています。
培養肉の商業化へ向けた動き
2013年に初の培養牛ひき肉ができて以来、世界中で多くのスタートアップ企業が培養肉の研究をしています。
それらの会社の25%以上が培養牛肉を、20%が培養の豚肉・鶏肉の研究をしていますが、魚やエビといった魚介類の肉を開発している会社も少なからずあります。
消費者を顧客にするB2C(Business-to-Consumer)がメインですが、細胞培養液や成長因子の製造(Multus Media社、Heuros社、Luyef社、Biftek社、Future Fields社、Cultured Blood社)、細胞株の作製(Cell Farm Foods社)、素材としての油脂の製造(CUBIQ Foods社)など、培養肉研究を行う企業を顧客とするB2B(Business-to-B2B)モデルも登場し始めています。
政府の支援も手厚くなり始めており、例えばシンガポール政府は1億ドルものお金をこの分野の研究に投じることを発表しています。
培養肉の問題点
培養肉にはまだまだ課題が山積みですが、ここでは3つ紹介します。
1つ目として、培養肉の産生に使われるFBS (Fetal Bovine Serum)は非常に高価であり、培養肉の製造コストの80%を占めていると言われています。多くの企業がFBSを使用しない方法を模索していて、Blue Nalu社やMosa Meat社はすでにこの課題を克服したと発表していますが、まだまだ一般的な方法にはなっていません。
2つ目の課題には味があります。Mosa MeatやAleph Farmsなどは、味の問題は解決したと主張しているものの、味や食感にはまだ改善の余地があると考える人の方が多いのが現状です。これについては、例えばイギリスの新聞大手であるGuardian誌の記事 (英語) に詳細が書かれています。
3つ目の問題は、現状のところ何の規制もないことです。食品である以上、国のルールに合格する必要がありそうですが、培養肉は新しい技術であるためまだ規制の制定が追いついていません。専門家による密度の高い討論としっかりとしたルール作りが急務であると言えるでしょう。
まとめに代えて
培養肉の会社はアメリカに多くあります。その中でも特にカリフォルニア州に多く集まっており、例えばMemphis Meats社、Mission Barns社がバークレーにあり、Artemys Foods社やBalletic Foods社、New Age Meats社などがサンフランシスコにあります。
日本にもintegriCultureという会社が培養肉の研究をしています。
関連図書
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