研究能力の評価指標10選 【研究者の戦闘力】
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【生命医学をハックする】運営者 (@biomedicalhacks)。生命科学研究者、医師・医学博士。プロフィールはこちら

ビジネスではその成果を数値化するのが必須ですが、これは研究という人類にとって未知のものを発見・開発していく仕事でも同じです。

研究職のポジションを獲得するのにも、研究資金を配分してもらうのにも、他のライバル研究者との競争があり、その際に研究能力の客観的な数値指標が参考にされるようになりました。

競争的な場面で使用されるこれらの指標は、まさに研究者にとっての「戦闘力」と言えるでしょう。

この記事では、古典的な指標から近年隆盛している指標まで、さまざまな指標について紹介します。

インパクトファクター

最も使われてきたのはインパクトファクターで、Garfieldが学術雑誌の評価指標として提唱したのが始まりです。

これは、その雑誌に掲載された論文が平均してどの位引用されているのかを示す指標で、個々の研究そのものの評価ではなく雑誌の評価であることに注意が必要です。

実際、提唱者のGarfieldもインパクトファクターを個々の研究者評価に利用するべきではないと勧告しています。

それにも関わらずこの指標が普及した背景には、研究の多様化が挙げられます。

つまり、評価する側になって考えてみると本業の業務の傍らボランティアで審査員を引きうけたくさんの応募者の研究を評価しないといけないときに、自分と専門分野が違う研究者の個々の論文をしっかりと読み込んでしっかりと評価するのはほぼ不可能なので、その論文が掲載された学術誌のインパクトファクターを使うほうがいいというわけです。

インパクトファクターの意味と限界をしっかりと理解した上で、この指標を使うことが必要です。インパクトファクターは毎年6月に更新され、最新版は生命医学系学術誌の最新インパクトファクターとその傾向という記事で紹介しています。

同様の雑誌の評価指標として、インパクトファクターのような単なる引用数だけでなく、雑誌間における引用の重み付けなども考慮した複雑な計算方法から得られる指標であるSCImago Journal & Country Rank (SJR) Eigenfactorなどの新しい指標も提唱されています。

論文数・被引用数

インパクトファクターの高い雑誌に研究成果を発表するとなると、どうしても論文数は少なくなってしまいます。

しかし論文数も重要な研究能力の評価指標であり、実際の人事では論文数~本以上という基準があったりします。

研究費の配分についても、10年間に著名な学術誌に論文を1本出した後、論文発表がないケースと、それほど大きな論文ではないけどコンスタントに発表し続けているケースでは、どちらかというとコンスタントに発表している研究者に研究費を多く配分するのではないでしょうか?

科学界への影響度を測るという意味では、総被引用数も指標の1つであり、教授選などではこれまでの被引用数を書かされるケースも増えています。

他の研究者からほとんど引用されることのない研究をして論文数だけ稼いでも、被引用数は大きくなりませんし、1本のホットペーパーしかない場合も被引用数は大きくなりません。

その点、被引用数は、論文の「質」と「量」を同時に評価する指標と言えるでしょう。

h-index

論文の「質」と「量」を評価する新しい指標として2005年に提案されたのがh-indexです。

その定義は、被引用数が少なくともh回あるものがh報以上あるとき、その研究者のh-indexはhであるということです。

なんか難しそうですが、これはとても単純で、単に発表論文を引用数の多い順に並べていくだけで計算していきます。

論文A 100回引用
論文B 10回引用
論文C 1回引用

例えば3本の論文A,B,Cがあるとして、引用回数の多い順に並べたら上のようになったとします。

この場合のh-indexは2になります。なぜなら、2回以上引用された論文が2本 (論文AとB) あるからです。

h-indexを3にするためには、3回以上引用された論文が3本あればいいので、論文Cをあと2回引用してもらうか、新しい論文Dを発表してそれが3回引用されたときにh-indexが上がって3になるということです。

h-indexは論文の「量」と「質」を考慮したシンプルな指標として注目を集めました。

しかしながら、単純化された指標だからこそ情報も欠落してしまっています。例えば次のケースでは、はるかに大量に引用されている重要な研究であるのにも関わらず、h-indexは上と同じ2にとどまってしまいます。

論文A 10000回引用
論文B 100回引用
論文C 1回引用

また、h-indexでは研究者の活動期間が考慮されていないというのも問題とされています。つまり、論文を書き上げるだけでなく、それが認知され他の研究者に引用してもらうのにも時間がかかるので、若手の研究者はもともと不利な条件で算出されるということになり、基本的に研究歴の長いシニアな人の方が現在の研究能力に関わらずh-indexは高くなります。

さらに、2-3人といった少数で発表した論文も、臨床系の論文でありがちな実際にはほとんど関わっていないのに著者に加えてもらう人がいる結果たくさんの著者がいる論文も、h-indexの観点からは同じになります。

つまりh-indexは論文の筆頭著者でもたくさんの著者の1人でも計算式が同じなので、著者に入ってさえいればいいのです。

これらの弱点を補正するために、多くの改良版の指標がその後に提唱されました。これらはh-indexをベースにしているのでh-indexファミリーと総称されています。

h-indexファミリー

g-index

g-indexはh-indexの補完的な指標として提唱されました。

g-indexは、被引用上位g番目までの論文の被引用数総和がgの2乗以上となることを満たす最大値です。

論文A 100回引用
論文B 10回引用
論文C 1回引用

例えばg-indexが1とは、被引用上位1番目までの論文 (このケースでは論文A) の被引用数総和が1の2乗 (=1)以上 となる状態で、論文Aの引用回数は100回なのでこれはクリアしています。

g-indexが10になるのは、被引用上位10番目までの論文 (このケースでは論文A, B, C) の被引用数総和が10の2乗 (=100)以上 となる状態ですが、今回は100 + 10 + 1 = 111なのでこれは満たしています。

g-indexが11になるのは、被引用上位11番目までの論文 (このケースでは論文A, B, C) の被引用数総和が11の2乗 (=121)以上 となる状態ですが、今回は111なのでこれは満たしていません。

つまりこの研究者のg-indexは10であり、h-indexの2よりも大きな値になります。

実は常にg-indexはh-index以上になり、特に高被引用論文の情報を増幅することができますので、同じh-index を持つ研究者の間でもg-indexではより感度良く差を出すことができます。

例えば先ほどの例でh-indexは2だった

論文A 10000回引用
論文B 100回引用
論文C 1回引用

という研究者のg-indexは100であり、同じh-index = 2でもg-indexでは10と100と大きな違いとなって現れます。

hg-index

h-indexとg-indexがお互いに補完しあう指標ならば、1つにまとめたらどうかということで作られたのがhg-indexです。

計算は簡単で、h-indexとg-indexの積をとって平方根を求めます。

h-index = 2, g-index = 10 の研究者の場合、hg-index = 4.47
h-index = 2, g-index = 100の研究者の場合、hg-index = 14.1

となります。

上位の被引用数情報に鈍感なh-indexと、一部のホットペーパーの影響を過敏に受けてしまいがちなg-indexの弱点を上手にカバーし合った指標といえるでしょう。

A-index

A-indexは、h-indexの算出において,論文順位h番以上の上位被引用論文の平均被引用数のことです。

例えばh-index = 2である先程の研究者

論文A 100回引用
論文B 10回引用
論文C 1回引用

の場合は、順位2番以上、つまり論文AとBの平均引用数である55がA-indexの値となります。

同様に、

論文A 10000回引用
論文B 100回引用
論文C 1回引用

の場合は、順位2番以上、つまり論文AとBの平均引用数である5050がA-indexの値となります。

R-index

R-indexもA-indexと同様、引用上位h論文に着目します。A-indexではその平均引用数でしたが、R-indexの場合はそれらの被引用数の総和の平方根になります。

先程から出ている

論文A 100回引用
論文B 10回引用
論文C 1回引用

の場合は、順位2番以上の総引用数は110回であるので、その平方根をとってR-index = 10.5となります。

m-index

論文が引用されるまでにはある程度の時間が必要で若手若手研究者には不利だということをまとめました。

これを考慮するため,h-indexをその研究者の最初の論文以降の経過年数で割った値が m-indexです。

例えば先程のh-index = 2の研究歴が5年だとすると、m-index = 2/5 = 0.4となります。

この指標では研究をずっとしているという前提があるので、何らかの事情で研究活動を一時期離れた研究者には不向きです。

引用情報のデータベース

いろいろな指標を紹介しましたが、その全てにおいて論文数や被引用数などの情報が必要です。

これらについての情報が入手できる国際的なデータベースもいくつかあって、

エルゼビア社: Scopus
トムソン・ロイター社: Web of Science
Google社: Google Scholar
ACS: SciFinder

などが代表的なものです。どのデータべースを使うかによって各指標の値が変わる可能性があるので、それぞれの収録雑誌の範囲や引用情報といった特徴を把握して利用する必要があります。

これからの指標

従来の紙ベースの学術誌では計測できなかった新たな指標も徐々に注目されるようになってきました。

その1つが、電子版だかこそ測定可能になった閲覧数やダウンロード数でしょう。今やほとんどの学術誌でその論文が何回閲覧されたのかが開示されています。

また、多くの学術誌はTwitter等のSNSにも力を入れており、そこでのいいねやリツイートの数も将来的には研究のインパクトを測定する1つの大きな指標になってくるかもしれません。

まとめに代えて

この記事では、研究能力の評価指標を紹介しました。

完璧な指標というのはないので、それぞれの指標の長所と短所を理解した上で賢く使っていくのが重要です。

関連図書

この記事に関連した内容を紹介しているサイトや本はこちらです。

生命医学系学術誌の最新インパクトファクターとその傾向

生物学・生命科学研究者になるには 【理系研究者が語る】

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