腎移植時に見られる予期しない拒絶反応を予測できるマーカーが同定された。より安全に移植が受けられるようになる可能性がある。
腎臓移植とドナー検査の概略
腎臓移植は、腎臓が機能しなくなった方 (レシピエント) に他の方 (ドナー) の腎臓を移植する医療だ。
腎臓移植は慢性腎不全の唯一の根治的治療である。
現在日本に透析患者さんが32万人いるものの、腎臓移植を受けている方は年間約1000人ほどで、まだまだ普及はしていない。
日本では移植ドナー不足はまだまだ続いているが、多くの先進国では医療の一つの柱として重要な位置を占めている。例えばアメリカでは年間2万件ほどの腎移植実績がある。
移植された腎臓が拒絶反応を起こさず生着するにはドナーとレシピエントの適合性があるというのが重要である。
腎臓移植の場合には、白血球の型 (HLA) があっているほど、移植の成績がよい。
移植された腎臓が機能する割合を生着率というが、移植後5年の生着率はおよそ80-90%ほどである。
しかし一定の割合で予測外の拒絶反応がおこってしまい、移植臓器が定着できない問題が今もある。
LIMS1遺伝子の多型も拒絶反応を決定している
コロンビア大学のグループは、一般的に行われている組織適合性テスト以外に移植した腎臓を拒絶する抗原の一つを突き止めた。
論文の原題は「Genomic Mismatch at LIMS1 Locus and Kidney Allograft Rejection 」で、The New England Journal of Medicine誌に発表された。
現在の組織適合性テストは、ドナーとレシピエントで別々に遺伝子多型をしらべ、最もマッチングしている組み合わせを選ぶ。
結局、これまでの知見が最も豊富にある主要組織適合性抗原 (MHC) のマッチングが中心だ。
しかし、当然他の細胞抗原も移植に関わる可能性がある。
この研究では腎臓移植の失敗率と相関させ、最終的に細胞生着に関わるLIMS1遺伝子のイントロンにある一つの多型を特定することに成功した。
具体的にはrs893403という名前がつけられた多型 (SNP) であり、その部位がGかAかで拒絶リスクは1.6倍も上昇する。
LIMS1はインテグリンシグナルに関わるアダプター分子で腎臓に強く発現している。
MHCに加えてLIMS1遺伝子も調べると良い?
少しでも移植の成功確率を高めようと、地道な努力が行われている。
この検査はどこでも簡単にできるものなので、従来のMHCに加えてLIMS1の検査も普及するとより腎移植の予期しない拒絶反応を防げるようになるだろう。