実験で使う試薬の中には,危険な物質も少なくなりません。そのような物質は、厳重に管理されています。
この記事では、毒薬と劇薬の違いや、安全に関わる区分法についてまとめます。
劇薬と毒薬は実は医薬品である
「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」という法律があります。省略して薬機法といいます。
この法律では,「医薬品」を普通薬・劇薬・毒薬に区分しています。普通薬は安全性が高く,安全性が低く,両者の中間が劇薬というおおまかなくくりです。
劇薬・毒薬は,薬の1つということです。
薬機法では,劇薬・毒薬の表示方法も指定しています.
「毒薬は,その直接の容器又は直接の被包に,黒地に白枠,白字をもつて,その品名及び『毒』の文字が記載されていなければならない.」
つまり、このような表示になります。
普通薬に比べれば慎重な使用が求められるものの、専門的な知識を持つ医師・薬剤師が使用する分には有用な薬です。例えば、抗がん剤の多くは毒薬に指定されており、脱毛や下痢・嘔吐などの副作用は強いものの、がんに対する効果もある程度は望める薬になります。
劇物と毒物のマーク
劇薬・毒薬と似たような名前がついていますが、劇物・毒物は全く別物であり、これらは「毒物及び劇物取締法」という法律 (毒劇法) に規定されています。
この法律では,劇物・毒物を以下のように定義しています.
「毒物」とは,別表第一に掲げる物であつて,医薬品及び医薬部外品以外のものをいう.
つまり、劇物・毒物は、薬ではないのです。薬として使うには危険性が高く、効力は劇薬・毒薬の10倍以上はあります。
毒劇法では,劇物・毒物の表示方法も決められています。
つまり、このような表示になります。
これらは治療薬として使うことはなく、研究専用の試薬ということになります。
危険有害薬品につけられたGHSマーク
劇毒物の表示以外にも、さまざまな危険有害薬品があります。どのように危険なのかは、GHS (Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)のシンボルマーク (絵表示) を見ることで分かるようになっています。
これらの危険性情報は、薬品の管理や扱い、廃棄におけるヒントにもなるでしょう。
消防法による危険物の分類
消防法では、危険物を次の6つに分類しています。
第1類: 酸化性固体 (自身は燃焼しないが、他の物質を強く酸化する固体)
塩素酸塩類、硝酸塩類、ヨウ素酸塩類、過マンガン酸塩類など
第2類: 可燃性固体 (着火しやすく、消火しにくい固体)
硫黄、赤リンなど
第3類: 自然発火性物質および禁水性物質 (空気中や水との反応で発火しやすい物質)
ナトリウム・カルシウム、黄リン、金属の水素化合物、炭化カルシウムなど
第4類: 引火性液体 (引火しやすい液体)
ジエチルエーテル、アセトアルデヒドなど
第5類: 自己反応性物質 (比較的低い温度で爆発的に反応する物質)
ニトログリセリン、ピクリン酸、ジアゾ化合物など
第6類: 酸化性液体 (自身は燃焼しないが、可燃物の燃焼を促進する物質)
過酸化水素、硝酸、過塩素酸など
これらは組み合わせることでさらに危険性が増してしまうので、同じ容器に入れないようにする必要があります。
特に危険な組み合わせはこちらです。
第1類 | 第2類 | 第3類 | 第4類 | 第5類 | 第6類 | |
第1類 | × | × | × | × | ||
第2類 | × | × | × | |||
第3類 | × | × | × | × | ||
第4類 | × | × | ||||
第5類 | × | × | × | |||
第6類 | × | × | × | × |
test1
test2
まとめに代えて
この記事では、危険な試薬につけられた表示について紹介しました。こういった知識は一度確認しておくと、必要なときに調べるのがずっと早くなります。
化学の観点から、バイオ系の安全な研究についてまとめた「バイオ実験を安全に行うために」は研究室には備えておきたい1冊です。
この記事で紹介した劇毒物の詳しい取り扱いについて知りたい方は、成書で勉強するのが早いです。「改訂新版 毒物劇物取扱者 合格教本」などがあり、試験を受けなくても参考になることばかりです。
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