夜間や休日でも、救急外来は絶えず患者さんの診療をしています。
しかしながら、本来は「緊急性の高い」患者さんのための救急外来に、実際には「平日日中は都合が悪い」患者さんも少なからず受診しているのは事実です。
研修医をしていたころ、「1週間くらい前から症状があったけど日中は仕事があって都合が悪いので」という患者に何度遭遇したことか。
そんなわけで、救急外来を受診するといくらかかるのかをまとめます。
結論を先にいえば、救急外来は日中よりもずっと高い上に診療も最低限なので、平日日中の受診をおすすめしますということです。
夜間休日は割増料金である
診療を受けたときの値段は、(保険診療の場合は) 国が決めています。
大雑把にいうと、医療行為にかかる器材や作業量などの実際の原価をベースにし、さらに時間外や夜間、休日は割増料金になります。
一般的な企業に例えれば分かりやすいですね。営業時間をすぎても仕事をしていれば「超過勤務手当」をもらうわけですし、深夜のタクシーは日中よりも高いです。
それと同じで、病院を診療時間外に受診すると患者さん (と国) がそういった手当も含めてスタッフに払うことになるのです。
具体的には、平日日中に受診した場合、初診料は2880円です (現役世代の方の場合はこの3割が実際に自分が払う分で、残りは自分が加入している医療保険が払っています)。
ところが17時をすぎた「時間外」の場合、ここに2300円が加算され、初診料は2880 + 2300 = 5180円となります。
日中と比べると倍近い金額になっていますね。
さらに22時~5時の「夜間」になると、加算額が2300円ではなく4800円になり、初診料は2880 + 4800 = 7680円です。
日中と比べると、深夜帯は初診料がおよそ3倍になります。
例えば,休日・夜間に腹痛で病院を受診し、各種検査と点滴をして、症状が改善し帰宅したらどれくらいになるでしょうか?
まず基本料は2880 + 4800 = 7680円になります。
採血検査については、どれくらいの項目を見るかによりますが、例えば10項目をみた場合はおよそ1660円になります。
心電図の検査は1回で1300円、お腹の超音波検査は1回で5300円ですが、これらはほぼ間違いなく受けることになります。
腹痛と間違う心筋梗塞もありますし、超音波はダメージ無くお腹の情報をいろいろ取得できるからです。
これらの検査で大きな異常がないという場合には、点滴 (980円) で様子をみるということになります。
合計すると16920円になり、この3割にあたる5076円が窓口で支払う金額ということになります。
今回の例はあくまで目安ですが、夜間帯は割増料金になるので、急病ならもちろんすぐに受診するべきですが「平日日中に都合がつかないから」という理由は損をします。
そういった施設では、届け出をしている普通の診療時間帯なので「割増料金」にはなりません。
その地域の中核となるような、救急車を断らない病院は診療時間が平日9-17時となっていることがほとんどなので、この記事では17時以降は「割増」と表記しています。
「明日まで待てる」場合、夜間休日は診療の質も落ちる
割増料金になる上、診療の質も日中とは大きく違います。
夜間・休日外来は、あくまで「その場しのぎ」です。
その時に処置しなければ死んでしまうといった大きな病気であれば、もちろん自宅で休んでいる専門医を呼び出したり他の専門機関に搬送したりして時間に関係なく迅速に対処してもらえますが、それ以外のことはちょっとした薬 (熱があるなら解熱薬1日分など) を出されて終わりです。
詳しい検査もしないので、原因も分からないことがほとんどです。
これはなぜかというと、夜間・休日はあくまで「救急外来」だから。
緊急を要するのか、それとも別に明日まで待って問題ないのか、そういう基準で判断されているからです。
夜間・休日は病院側も少ない人数で対応しており、「明日まで待てる患者」さんの詳しい検査をしていると「本当に危険な患者」さんの処置が遅れかねません。
それに、全ての科の専門医を夜間・休日も待機させておくのは不可能なので、ほとんどの施設の担当医は自分の専門科目にとらわれずに全部を診なければいけません。
餅は餅屋といいますが、お腹のことは消化器内科医に、骨折は整形外科医に、皮膚は皮膚科医に診てもらうのが一番です。
お腹も骨折も皮膚も同じ医師が診察する夜間・休日は、どうしても日中の専門医に診察してもらうのに比べて質が落ちてしまうのはこのためです。
さらに、夜間・休日外来は「救急外来」なので、より緊急度が高い患者さんが優先されます。
先着順ではないので、一見すいているように見えても2時間、3時間と待たされることもあります。
まとめに代えて
この記事では、夜間休日に病院を受診するとどうなるかをまとめました。
結論は、「夜間・休日の時間帯は本当の急病の患者さんに譲るのが賢明です」ということです。
救急車をある意味タクシーとして使う方も一定数いて、労働人口減&高齢者増の未来には「救急車が来なくなる時代」が懸念されています。
そうならないためにも、「時間が合わないから」夜に受診するのはやめましょう。
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