がんに関するさまざまなデータが蓄積するにつれて、そのデータマイニングにより見出した複数遺伝子セットをがん診断に使うという取り組みがなされてきました。この記事では、すでに承認されたバイオマーカーであるMammaPrintやその他のアプローチを紹介します。
データコホートからの診断用バイオマーカーの学習
がんにおけるビッグデータ研究の主要なゴールの1つは、疾患リスクを予測するための遺伝子検査の開発であり、そのいくつかは既に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受け商業化されています (Annu. Rev. Biomed. Data Sci. 2018)。生物学的メカニズムや経験的観察によるバイオマーカーとは異なり、ビッグデータ由来の検査方法開発においては、多くの患者やコホートから得られたゲノムデータを解析し、その中からまずは臨床検査用の遺伝子シグネチャーを作ります (Nature 2002)。このような遺伝子因子は、例えば臨床医が不必要な治療を避けたり副作用を最小限に抑えるために必要なアプローチを判断するのに役立ちます。そのためには、積極的な治療法を必要とする患者を見逃さないためにも、高い陰性的中率(検査で陰性と出れば本当に陰性)である必要があります (Annu. Rev. Biomed. Data Sci. 2018)。
ビッグデータ由来の診断用バイオマーカー検査の初期の例としては、Oncotype DX (N. Engl. J. Med. 2018)やMammaPrint (N. Engl. J. Med. 2016)、EndoPredict (Clin. Cancer Res. 2011)、Prosigna (J. Clin. Oncol. 2009) などのエストロゲン受容体(ER)またはプロゲステロン受容体(PR)陽性乳がん患者に対する予後判定方法があります。これらの検査は、早期乳癌のER/PR陽性、HER2陰性患者に対しては内分泌療法のみで十分な臨床的有用性が得られることから、過剰な治療を防ぐという意味で特に有用です (Lancet 2005)。つまり、これらの検査で低リスクと判定された患者さんは、不必要な追加化学療法を避けることができるのです。乳がん以外の他のがん種に対する検査としては、大腸がんや前立腺がんに対するOncotype DXや、早期肺がんに対するPervenioが知られています (Lancet 2012)。
このような2000年初頭に開発された初期の検査キットはある限られた遺伝子セットのみに着目していますが、それは全ゲノムデータ取得には高いコストやさまざまな問題があるため、検査自体は定量PCRやNanoString遺伝子パネルといった従来よりのアプローチに頼る必要があったからです。しかしDNAシーケンサーのコストが急速に低下していることから、このような検査をいくつかの遺伝子だけではなくゲノミクスデータから直接行えるようになり、従来のアプローチと比較して顕著な利点がもたらされる可能性が指摘されています (Nat. Biotechnol. 2019)。がんにおける遺伝子の変化は、一塩基変異、DNA挿入、DNA欠失、コピー数変化、マイクロサテライト不安定性など、さまざまなものがあります (Science 2015; N. Engl. J. Med. 2014)。これらの変化は、ハイブリダイゼーションベースの手法でキャプチャーしハイスループットシーケンスを組み合わせることによって検出することができます。例えば、全ゲノム解析というわけではまだないですがMSK-IMPACT (Nat. Med. 2017)と FoundationOne CDx検査は、ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍標本の DNA を使用して300~500 の遺伝子をプロファイルし、様々な治療から利益を得ることができる患者を特定することができる検査手法です。
見いだされた遺伝子変異と発がん性への関係については、がんのクローナリティ (Cell 2021)や他の変異との兼ね合いにも依存するため、特定の変異の解釈は依然として困難であることが多いという課題も残っています。ただ、DNAシーケンスデータから変異シグネチャーを同定することで、腫瘍形成プロセス(DNA修復の欠陥、外来性変異原への曝露、過去の治療歴など)を明らかにすることができるのです (Nature 2013)。したがって、その仕組を解読するための計算的アプローチが整備されることで、病理組織学データや放射線画像、カルテなどの他の臨床データとともに連動して考慮し治療方針を決定する時代になるでしょう。
まとめに代えて
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