迅速ライゲーション・トランスフォーメーションの方法 【日常のDNAワークをより速く】

生命科学研究にはいくつか「ルーチン」で行われていることがありますが、その1つはベクターとインサートをつなぐライゲーションと、それを大腸菌に入れるトランスフォーメーション、そしてプラスミド抽出でしょう。

この記事では、ライゲーションとトランスフォーメーションについて、典型的な方法よりも迅速に行う工夫を紹介します。

迅速ライゲーション

ライゲーションは室温で1~2時間、あるいは16℃で一晩インキュベートするというプロトコールは数多くあります。特に、年配の先生からは16℃で一晩と教わった方も多いでしょう。

確かに一昔前のligaseでは、そのようなライゲーション方法が最良だったのでしょう。しかし時代とともにligaseそのものも改良され、最近の優秀なligaseでは室温で5分くらいでtransformation可能になります。

市販のキットを使わなくてもligationを短い時間でできるという報告は多数あり、例えばCoffee Break Ligationというユニークな名前がついた方法もあります。

迅速トランスフォーメーション

Molecular Cloning等の成書に載っている一般的なトランスフォーメーション法は次のようなものです。

コンピテントセルをon iceで解凍し、プラスミドDNAを加える

on iceで30分

ヒートショック (42℃, 1分)

on iceで5分

LBやSOCなどの液体培地を加える

37℃・1時間インキュベーション

抗生物質が入った寒天培地にまいてovernight

全体で90分以上かかることになります。

迅速トランスフォーメーションでは、このうちon ice 30分のところと、37℃・1時間インキュベーションの時短を行います。

まず、プラスミドを加えた後のon ice 30分は不要で、すぐにヒートショックに移って何の問題もありません。ただこの場合、42℃ではなく少し高めの44℃にするのが1つのポイントです。

このヒートショックを忘れても実はちゃんと生えてくるのですが、クローンの数は少なくなります。

また、37℃で1時間のインキュベーションは場合により不要です。

どういうことかというと、最もよく使われているアンピシリンは大腸菌の細胞壁合成阻害剤であり、大腸菌を殺すことはありません (教科書的には静菌作用と書かれています)。静菌作用の抗生物質を使っている場合は、その耐性遺伝子を大腸菌が発現する前にプレートにまいても、最初は増えることができないもの、すぐに耐性遺伝子を発現し大腸菌が増え始めるため、わざわざ37℃のインキュベーションは不要ということです。

逆にカナマイシンはタンパク合成を阻害し、殺菌作用があります。こうした抗生物質を使う場合には、大腸菌が耐性遺伝子を発現する前にプレーティングしてしまうと死んでしまってコロニーができません。この場合は、LBやSOCなどを加えて、37℃で浸透培養をしてからまく必要があります。

プレカルチャーは必要?不要?
静菌作用の抗生物質 (アンピシリンなど) を使う場合:37℃インキュベーションは不要
殺菌作用の抗生物質 (カナマイシンなど) を使う場合:37℃で浸透培養してから寒天培地へ

浸透培養の時間は教科書的には1時間と書かれていますが、経験上は30分に短縮しても特に問題になっていません。また、SOCの方が効率がよいと言われてはいるもの、このためだけにSOCを用意するのも面倒ですし、通常はいつも使っている液体培地 (LBなど) で何の問題もありません。

なお、ここで紹介した迅速トランスフォーメーションはすでに1988年に発表されている方法です。詳細は原著論文をご覧ください。

トランスフォーメーションその後

さて、トランスフォーメーションをしてプレーティングしたら、37℃に入れてそこから10時間ほど待ちます。

JM109のような増殖の速い大腸菌の場合は8時間ほどで次の工程に移れます

コロニーをつついて抗生剤入りの液体培地で浸透培養をします。

チップを使ってつつく人もいますが、チップは1本2円するのに対して、つまようじなら1本0.1円です。研究費を節約するという観点からは圧倒的につまようじの方が優秀です。

ちなみにこのときのつまようじはオートクレーブ不要です。自分の手やつまようじについている、天然に存在する細菌が、抗生剤入りの液体培地で増えてくるということはまずありえません。

オーバーナイトで浸透培養する方もいますが、これも多くの場合は不要です。

実験目的次第ですが、プラスミドのチェックや、6ウェルディッシュにプレーティングしたいくつかのウェルの細胞にトランスフェクションするのであれば、4-5 μgもプラスミドが取れれば十分ということも多いでしょう。

その場合には、浸透を始めてから6時間程度、培養液がはっきり握り始めたくらいのタイミングでもうミニプレップ可能です。完全に濁らなくても、これくらいで十分プラスミドが回収できます。

プラスミド抽出の方法にも高速化するための工夫があり、迅速アルカリミニプレップ法の原理とプロトコル 【フェノール不要】で紹介しています。

また、サンプルがたくさんある場合にはボイルミニプレップの方が速いです。ボイルミニプレップによるプラスミド抽出 【大量サンプルの時に便利】という記事にまとめています。

まとめに代えて

この記事では、生命科学系の研究室で日夜行われているライゲーション・トランスフォーメーションを迅速に行う方法を紹介しました。

日常のルーチンだからこそ、それらのスピードアップを測ることで得られる恩恵は大きいです。

もちろん昔ながらの長時間の方法が悪いわけではありませんが、先輩からプロトコルに盲目的に従うのではなく、いろいろな改良を試してみるというのも大事ですね。

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関連図書

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迅速アルカリミニプレップ法の原理とプロトコル 【フェノール不要】

ボイルミニプレップによるプラスミド抽出 【大量サンプルの時に便利】

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