より効果的な抗体を作るために免疫細胞を遺伝子操作することによって、致命的なウイルス感染症に対する免疫をつけることができるという論文がScience Immunology誌に掲載された。原題は「B cells engineered to express pathogen-specific antibodies protect against infection」だ。
ワクチン開発の現状
ワクチンには、無毒化あるいは弱毒化した微生物が含まれている。そのワクチン成分が、B細胞という免疫細胞を刺激してその病原体微生物を標的とする抗体を産生するように訓練する結果、同じ微生物の感染を防ぐという仕組みである。
ただ、ワクチンを接種したすべての人に抗体ができるわけではない。
さらに、HIVやRSウイルス (RSV) などのある種の微生物に対しては有効なワクチンすら作ることができていない。これらは、主に子供や高齢者など免疫能が十分ではない人々に重篤な感染症を引き起こすのにもかかわらずだ。
HIVワクチンは未だ開発できていないが、ウイルスにさらされた一部の人々は自然にそれに対する非常に強力な抗体を生産している。つまり人為的なワクチンはまだ不十分だが、感染したことがある人が持つ抗体についての知識を使えば感染したことがなくても免疫をつけることができる可能性があるのだ。
遺伝子改変B細胞で免疫能を作り出す
今回の研究では、アメリカの免疫学者らがRSVに対して強力だということが知られている抗体を作り出すために、遺伝子操作したB細胞を作成した。
マウスB細胞の抗体遺伝子の1つをCRISPRで切断し、同時にウイルスを使って抗RSV抗体の遺伝子を細胞に安定的に入れた。
導入遺伝子が相同組み替えで目的の位置に入った後、機能し始め、目的のRSV抗体 (engineered monoclonal antibody (emAb) )を作り出すことに成功した。
同じアプローチを使って、人のB細胞をハックしてHIVと1種類のインフルエンザウイルスなどに対する抗体を作り出すこともできた。
改変B細胞を移植することで感染を予防できるかどうか調べるために、この細胞を免疫不全マウスに注射し、次に動物にRSVを感染させた。
5日後に調べたところ、通常のB細胞を移植したマウスの肺はRSウイルスの感染が見られたのに対し、改変B細胞を投与したマウスの肺にはRSVはほとんど見られないことが分かった。
作り出したB細胞が生体内で機能することを意味する。
この研究の意義と今後の課題
今回の遺伝子改変B細胞によるアプローチは、RSVやHIV感染などに対する免疫能を人為的に外から入れることができることを意味する。
同じように細胞を操作することで、ウイルスによって引き起こされる他の病気を防ぐことにも使えるかもしれない。
ただ現状の方法には弱点もある。このアプローチは一人一人からB細胞を取ってきて、そこに遺伝子改変をしたのちに戻すということを行うため、コストがかかってしまうのだ。
よりコストを抑えるための方法やプラットフォームの開発が望まれる。