細胞生物学への光遺伝学の応用例 【神経だけではない】
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光で神経の活動を制御する、光遺伝学 (オプトジェネティクス) と呼ばれる一連の技術があります。

光学と遺伝学を融合した分野で、2006年に最初に提唱されて以来、神経科学・脳研究で広く使われるようになってきました。ノーベル賞が期待されている技術です。

この記事では、神経科学以外のオプトジェネティクスの応用例についていくつか紹介します。

オプトジェネティクスでタンパクタンパク相互作用を変化させる

オプトジェネティクスを使えば、タンパクタンパク相互作用を変化させることができます。

興味のあるタンパクAとBに、それぞれ別々の光によって結合するようなドメインを融合させておけば、その光を当てた時にAとBが非常に近接するというのが大雑把な仕組みです。

いろいろな波長の光で活性化されるシステムがこれまで使われてきました。

青色光で活性化されるLOV-PDZシステム (LOV-based optogenetic devices: light-driven modules to impart photoregulated control of cellular signaling. Front. Mol. Biosci. 2015)やCRY2-CIB1システム (Rapid blue-light-mediated induction of protein interactions in living cells. Nat. Methods 2010)

赤色で活性化されるPhyB-PIFシステム (Spatiotemporal control of cell signalling using a light-switchable protein interaction. Nature 2009)

紫外線で活性化されるUVR8-COP1システム (The UV-B phot oreceptor UVR8: from structure to physiology. Plant Cell 2014)などが挙げられます。

光でセカンドメッセンジャーを操作する

光によってセカンドメッセンジャーの産生を誘導するツールも使われています。光活性化アデニルシクラーゼ(PAC)、グアニルシクラーゼ、ホスホジエステラーゼが作られてきました。

例えば、bPACは光活性化アデニルシクラーゼで、青色光で活性化させるとcAMPを産生することができます (Cyanobacteriochrome-based photoswitchable adenylyl cyclases (cPACs) for broad spectrum light regulation of cAMP levels in cells. J. Biol. Chem. 2018)。

ロドプシンの一種であるBeCyclOpは光活性化グアニルシクラーゼであり、緑色光に応答してcGMPを産生します (Optogenetic manipulation of cGMP in cells and animals by the tightly light-regulated guanylyl-cyclase opsin CyclOp. Nat. Commun. 2015)。

逆に、赤色光で活性化するホスホジエステラーゼ(LAPD)はcAMP/cGMPを分解します (Engineering of a red-light-activated human cAMP/cGMP-specific phosphodiesterase. PNAS 2014)。

非天然アミノ酸を組み込んだオプトジェネティクスツール

自然界に存在する20種類以外のアミノ酸を、非天然アミノ酸(unnatural amino acids, UAA)といいます。

これを使えば、部位特異的なタンパク質標識を行うことができます。 UAAは、特定の停止コドン (通常はUAG) を認識するtRNAを改変することでUAAを持ったtRNAを作ることができ、あらかじめ目的タンパクの目的の位置をUAGにしておけばその部位特異的に非天然アミノ酸を組み込むことができます (Beyond the canonical 20 amino acids: expanding the genetic lexicon. J. Biol. Chem. 2010)。

機能的に重要なアミノ酸を、光ケージされたUAAで置換することで、光照射でケージが破壊されてタンパク質の機能が回復するまで、標的タンパク質を阻害しておくということが可能です (Light regulation of protein dimerization and kinase activity in living cells using photocaged rapamycin and engineered FKBP. J. Am. Chem. Soc. 2011)。

これは光によってタンパクの機能を誘導的にONにするという例ですが、逆にOFFにすることもできます。

例えば、光で架橋 (クロスリンク) されるUAAがあり、これを使えば光刺激でタンパク質機能を阻害することも可能です (Using genetically incorporated unnatural amino acids to control protein functions in mammalian cells. Essays. Biochem. 2019)

光化学遺伝学でシグナル伝達を操作する

光が目的の組織にあまり届かないと、オプトジェネティクスツールを使える範囲が制限されてしまいます。

そのため、オプトジェニックツールを活性化するための光以外の代替手段についても研究が進んでいます。

その魅力的な手段の1つは、生物発光です。ルシフェリンなどの基質が直接in situで光を生成するために、より深い組織に適用することができます。

例えば、海洋性プランクトンであるカイアシ類由来のルシフェラーゼ (GLuc)をチャネルロドプシンのN末端に融合させ、ルシフェラーゼ基質に応答して効果的にチャネルを開くことが実証されています。

光活性化アデニルシクラーゼであるbPACとNLucを組み合わせてcAMP合成を制御するツールもあります (Luminescence-activated nucleotide cyclase regulates spatial and temporal cAMP synthesis. J. Biol. Chem. 2019)。

しかし、このタイプのツールはスイッチのオンオフがまだまだ容易ではなく、また、ルシフェリンはすぐになくなってしまうため活性化の持続時間が短いという問題もあり、これからさらに改善されていくでしょう。

関連図書

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