肥満には遺伝子の影響はどこまであるのか

毎年健康診断の時期になると途端に体重を気にする人も多いのではないだろう。

特に肥満気味であれば医者に食事を控えるように、あるいはもっと運動するようにという生活アドバイスを受けたことがある方も少なくないだろう。

でも本当に運動や食事だけが悪さをしているのだろうか?遺伝子の影響はないのだろうか? 

肥満のリスクを遺伝子で評価するという研究がCell誌に報告された。原題は「Polygenic Prediction of Weight and Obesity Trajectories from Birth to Adulthood」だ。

肥満の定義と遺伝子の関与

そもそも肥満とは何だろうか?

一般的に身長の高い人の方が体重も重くなることは容易に想像できるだろう。体が大きいからだ。

そのため体重そのものではなく身長で補正することが必要だ。具体的には体重 (kg) を身長 (m) で2回割るという計算を行う。その結果がBMI (Body Mass Index) という指標だ。

例えば身長180 cm (= 1.8 m)で 体重60 kg の人の場合、 BMI は18.5になる。

60 ÷ 1.8 ÷ 1.8 = 18.52

どれくらいのBMIだと肥満になるかというと、25以上で軽度肥満というのが一般的な基準だ。

Source: https://rojiura333.com/bmi/

 

本題から少しそれた。今回の研究に戻ろう。

肥満と遺伝子の関係を報告したのはアメリカ・マサチューセッツ病院のグループだ。

彼らは遺伝子情報であるゲノムを使って、一生のうちに肥満になるリスクを評価することができる点数 (スコア) システムを開発した。

この研究を行う上で研究者らは以前に報告された別のグループのデータ (ゲノムワイド関連研究 GWAS) を使った。

新生児から中年成人まで、30万人以上の人々の遺伝子とBMIを解析し、肥満リスクスコアを考案した。

その結果最も高いリスクがある人々は最も低い人よりもずっと肥満になる可能性が高いことが明らかになった。

1点補足すると、このスコアは出生時体重と関係があるわけではないようだ。噛み砕いて言えば、赤ちゃんの頃の体重と大人になってからの体重は関係ないということだ。

これまでの肥満遺伝子研究では一つの遺伝子に注目されているものが多かったが、実際の肥満はより多数の遺伝子が組み合わさって起こっている。今回の研究はそれを反映した遺伝子スコアだ。

この研究の意義と注意点

Source: https://rojiura333.com/bmi/

しかし遺伝子スコアが低くても過信は禁物だ。肥満は遺伝子だけで決まっているのではない。

それが証拠にもし遺伝子だけで決まっているなら肥満の人の割合はほぼ変化しないと思われるが、過去数十年を見てみると肥満者の割合は成人で2倍、より若い世代では3倍になっている

実際、遺伝子による影響は肥満に占めるうちの半分であり残りの半分はライフスタイルつまり食事や運動などの要因によるものだ。例えば現代の高カロリーな食品や、デスクワークが多くなり体を動かす時間が減っている仕事環境などが、肥満の増加に拍車をかけているのは疑うべくもない。

DNA は決して運命ではない。健康的なライフスタイルが肥満を防ぐことができる。肥満の可能性の高い遺伝子型の人々はより特別な注意をすればいいだけのことだ。

そのためには、やはり定期的に健康診断を受診し、医師や看護師などの専門職のアドバイスを真摯に聞く必要がある。もちろんそれを周りの人がサポートする環境も必要だ。

人生100年時代、自分の体は自分で守るという姿勢が今後はますます求められるようになるだろう。

おまけ (研究者向け):使用したデータやツール

この研究に興味がある方向けに、筆者らが使用したツールを少しだけ紹介する。
GIANT
UK Biobank
PLINK

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