蛍光色素の選び方【おすすめ一覧】
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蛍光色素は生命医学研究にさまざまな知見をもたらしてきました。現在ではよりたくさんの蛍光色素が利用可能になっており、蛍光染色やFACS等の実験で使われています。

この記事では、それら蛍光色素について、特に代表的なものに絞ってまとめました。

青レーザーで励起される蛍光色素

488 nm 青レーザー

古典的なFITCと、褪色に強いAlexa Fluor 488が最もよく使われます (免疫染色でない限りは安いFITCで十分です)。

FITCよりも明るいVioBright FITCとか、BD Horizon Brilliantもありますが、高価なので予算との相談です。

色素名 励起 検出 特徴
FITC FITC (530/30) 緑の定番色。PEへの漏れ込みに注意
AlexaFluor 488 FITC (530/30) これも定番。FITCよりわずかに明るい。褪色しにくいので免疫染色に向く
BD Horizon Brilliant Blue 515 FITC (530/30) FITCの7倍明るいが、その分高価。明るくする意味があるかと値段との兼ね合い
VioBright FITC FITC (530/30) FITCをより多く結合したもの

540 nm 緑レーザー

もともと青レーザーで励起していたが、近年のハイエンドモデルで搭載された緑レーザーで励起した方がよりよい色素にはこのようなものがあります (緑がない場合は青でもOKです)。

このカテゴリーの定番はPEで、明るく使用しやすいです。

Texas Red系 (590-620 nm) の色素も最近は増えてきたので使われるようになってきました。

色素名 励起 検出 特徴
PE PE (575/26) シグナルが強いので、発現量が低い分子の検出に向く。デメリットとして、青レーザーの他の蛍光色素全てに漏れ込んでしまう
PI PE-Texas Red (610/20) 死細胞除去の定番
PE/efluor 610 PE-Texas Red (610/20) PEとのタンデム色素
PE/Dazzle 594 PE-Texas Red (610/20) PEとのタンデム色素
PE-CF594 PE-Texas Red (610/20) PEとのタンデム色素
PE-Vio 615 PE-Texas Red (610/20) PEとのタンデム色素
7AAD PerCP-Cy5.5 (695/40) タンデム色素。死細胞除去の定番、とても明るい
PE/Cy5 PerCP-Cy5.5 (695/40) タンデム色素。とても明るいが、APCへ強く漏れ込む。
PerCP PerCP-Cy5.5 (695/40) タンデム色素、PerCP/Cy5.5より少し暗い
PerCP/Cy5.5 PerCP-Cy5.5 (695/40) タンデム色素で、PE-Cy7への漏れ込みに注意。
PerCP/eFluor 710 PerCP-Cy5.5 (695/40) タンデム色素、PerCP/Cy5.5より少し明るい
PE/Cy7 PE/Cy7 (780/60) PEおよびAPC/Cy7への漏れ込みに注意

赤色レーザー

APCチャネルでは、APCAlexa Fluor 647がよく使われます。

Alexa Fluor 700チャネルでは、Alexa FluorよりもAPC/Alexa Fluor 700のタンデム色素の方が明るいのでよく使われています。Alexa Fluor 700は長期保存をする場合には向いています。

色素名 励起 検出 特徴
APC APC (670/30) 明るく赤色の定番。APC-Cy7への漏れ込みあり。
Alexa Fluor 647 APC (670/30) APCと同じく定番。褪色しにくいので免疫染色に向いている。
Alexa Fluor 700 Alexa Fluor 700 (730/45) 暗い色素だが、発現量の多い分子なら大丈夫。APC, APC-Cy7への漏れ込みに注意
APC-Alexa Fluor 700 Alexa Fluor 700 (730/45) Alexa Fluor 700よりは明るいものの、全体的に暗い。APC, APC-Cy7へ漏れ込む。
APC/Cy7 APC/Cy7 (780/60) APC-Alexa Fluor 700と同程度の明るさ。固定に弱い。

紫色レーザー

405 nmの紫レーザーで励起できる色素として、従来はPacific BlueやBD Horizon V500が使われてきました。

近年、より明るいBrilliant Violet系色素が登場し、使いやすくなっています。少し古い機器だと紫レーザーが搭載されていないこともあるので注意が必要です。

色素名 励起 検出 特徴
Pacific Blue Pacific BLue (450/50) 暗い色素だが、検出チャネルが他と独立しているので使いやすい
Brilliant Violet 421 Pacific BLue (450/50) とても明るい。難点は高価なこと。
DAPI Pacific BLue (450/50) DNA染色でお馴染み。UVレーザーを使うことも多いが、紫レーザーでも励起できる
BD Horizon V500 AmCyan (525/25) 昔使われていたPacific Orangeよりも明るいし漏れ込みも少ない。
Brilliant Violet 510 AmCyan (525/25) 紫レーザー→オレンジ系では最も明るい

他にもBrilliant Violetには605, 650, 711などのシリーズがあります。

UVレーザーで励起される蛍光色素

細胞膜透過性のDNA結合色素 (特にAT塩基対に特異的) であるHoechst 33342は細胞膜透過性なUV励起の蛍光色素です。

ちなみに他の代表的な各染色試薬との比較はこのようになります。

蛍光色素 膜透過処理 塩基配列選択性 励起レーザー
PI 必要 なし アルゴンレーザー
7-AAD 必要 GC塩基対特異的 アルゴンレーザー
Hoechst33342 不要 AT塩基対特異的 UVレーザー

BD Horizon BUVシリーズというUV励起で6色を染められる色素も開発されています。

蛍光色素の選び方とカタログの見方

蛍光色素にはそれぞれ特性があります。

まず特性の1つ目として、明るさが違うことがあります。基本的には、発現量の低い分子に明るい色素を割り当てるということを目指します。

特性の2つ目として、それぞれの蛍光色素はお互いに漏れこむ可能性があります。なるべく他の色素に漏れこまないように選択する必要があります。

これを行うのに便利な情報がステインインデックスと、各社のスペクトルビューアーです。

ステインインデックス

ステインインデックス (stain index) とは、「陽性細胞と陰性細胞の平均蛍光強度の差 (Diffirence)」をD、「陰性細胞の蛍光の標準偏差の2倍」をWとした時に、

D/W

で計算されます。つまり、ステインインデックスが高いということは、ポジティブとネガティブの分離がよく、ネガティブ細胞のピークはシャープで、使い勝手のよい色素ということになります。

蛍光スペクトルビューアー

それぞれのメーカーが、各蛍光色素の特性を可視化するツール、スペクトルビューアーを提供しています。
BD Bioscience社

BioLegend社

サーモフィッシャーサイエンティフィック社

細胞核・細胞質・細胞膜の染色色素

細胞核を染める蛍光色素

核を生きたまま染めるためには、細胞膜を透過するDNA結合色素を使えば可能です。

たとえば、Hoechst, DRAQ5, AO (Acridine Orange)、SYTO色素などがあります。これらは生細胞だけでなく死細胞や固定・膜透過した細胞も染めます。

もし死んだ細胞の核だけを染色したいなら、細胞膜を透過しない (死細胞は細胞膜が壊れているので通過できる) 色素、PI、DAPI、7-AADなどを使用することができます。

AOは、2本鎖DNAに結合すると緑色、1本鎖DNAまたはRNAに結合すると赤色の蛍光を発します。そのためDNAとRNAを同時に定量できます。

SYTO色素はDNAとRNAの両方に結合する蛍光色素で、SYTO green, SYTO blue, SYTO orange, SYTO redなどがあります。

SYTO色素はHoechst, DRAQ5, AOに比べて細胞毒性が低いというメリットもあります。

細胞質を染める蛍光色素

細胞質の染色にはCFSEが最もよく使われています。前駆体のCFDA-SEには蛍光性はないのですが、細胞膜を通過して細胞内に入るとエステラーゼによって加水分解を受け、蛍光性を持つCFSEになるという原理です。

さらに、細胞内タンパクのアミノ基に共有結合するので、細胞質に長期間保持されます。

同様の原理で動く色素は他にもあります。例えばCalcein-AMが代表的で、これ自体は蛍光性がないものの、細胞内エステラーゼで加水分解されると膜不透過性・蛍光性のCalceinになります。

Calceinは細胞質のタンパクと共有結合しないので、細胞膜に穴が開くと拡散により放出されて蛍光を失うので、細胞障害圧政などにも利用されています。

細胞膜を染める蛍光色素

細胞膜の染色には、Di1, DiO, PKH色素などがあります。いずれも長鎖脂肪族末端を持っていて、これが細胞膜に刺さることで長時間安定的にモニタリングできます。

他には、細胞膜表面のタンパクが持つ糖鎖にレクチンが結合するという性質を利用して、蛍光色素標識レクチンを使って細胞膜表面を蛍光標識することもできます。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • 発現量の低い分子には明るい蛍光色素を使うのが鉄則
  • 漏れ込みの程度はスペクトルビューワーで確認
  • 核・細胞質・細胞膜を染める色素もある

今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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