無細胞遺伝子発現系を使ったバイオセンサーやタンパク・化合物産生 【無細胞系の応用例】
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【生命医学をハックする】運営者 (@biomedicalhacks)。生命科学研究者、医師・医学博士。プロフィールはこちら

無細胞遺伝子発現系はさまざまなところで使われていて、その一部は無細胞発現系で細胞を理解する 【欧米の学校教育でも使われている】で紹介しました。

この記事では、バイオセンサーとして、あるいはバイオ工場として使うという研究を見ていきます。

無細胞遺伝子発現系をバイオセンサーとして使用する

さまざまなバイオセンサーが開発されていますが、無細胞遺伝子発現系を応用したバイオセンサーもあり、センサーが標的とする化合物が検出された時にレポータータンパク質が条件付きで発現するような工夫がされています。

無細胞遺伝子発現系を使ったバイオセンサーのメリットとして、細胞壁を透過しない物質や細胞毒性のある物質も検出できるということが挙げられます。また、無細胞系におけるセンサーは、細胞を使ったバイオセンサーでしばしば問題となる突然変異やプラスミドの損失などでセンサー機能が失われてしまうということもありません。

さらに、無細胞遺伝子発現系は普通の条件で持ち運び可能だというメリットもあります。2014年には、無細胞バイオセンサーを凍結乾燥(凍結乾燥)させ、紙のマトリックス上で数ヶ月間活性を維持できることが示されています (Paper-based synthetic gene networks. Cell 2014)。

細胞を使ったバイオセンサーだとそれなりの研究環境が必要な施設でないと使うことができませんが、無細胞遺伝子発現系によるバイオセンサーは臨床現場や屋外 (感染症の迅速診断など)でも使うことができます。

核酸を検出するセンサーの多くは、toehold switchと呼ばれる仕組みを採用しています。これは核酸にレポーターをつけておき、さらにその核酸は最初は二本鎖状になっているのでレポーターが発現しないものの、目的の核酸が見つかるとその二本鎖が外れる結果レポーターも発現するようになっています (Toehold switches: de novo-designed regulators of gene expression. Cell 2014)。

200601
(https://www.nature.com/articles/s41576-019-0186-3/figures/5より引用)

標的の核酸の量が少ない場合、しばしば核酸の増幅をしてからでないとバイオセンサーでは検出できませんが、例えば実際のフィールド調査ではPCRを利用することができません。

こういった場合でも、核酸配列に基づいた増幅 (Highly sensitive detection of gene expression of an intronless gene: amplification of mRNA, but not genomic DNA by nucleic acid sequence based amplification (NASBA). Nucleic Acids Res. 1998)と逆転写レコンビナーゼポリメラーゼ増幅(DNA detection using recombination proteins. PLOS Biol. 2006)といった方法を使えば、サーマルサイクラーなしで核酸を増幅することができます (Rapid, low-cost detection of Zika virus using programmable biomolecular components. Cell 2016)。

その場合でも、増幅と感知反応全体にかかる時間は、37℃でわずか3時間しか必要としません。実際にこの無細胞遺伝子発現系を使ったバイオセンサーは2015年頃に中南米で流行したジカ熱の調査で大きな貢献を果たしました (Rapid, low-cost detection of Zika virus using programmable biomolecular components. Cell 2016)。

無細胞翻訳系を「工場」として利用する

大腸菌は盛んに増えるので、その総タンパク質生産性は、1時間当たり・1リットル当たりで数百グラムを超える可能性がありますし、低分子の場合ならば (細胞毒性がなければ) 理論的にも同様に1時間当たり1リットル当たり数百グラムを作ることができると計算されています (Expanding biological applications using cell-free metabolic engineering: an overview. Metab. Eng. 2018)。

さらに、タンパク質にしばしば見られるジスルフィド結合をin vitroで形成されるための方法も2000年代に開発されています。具体的には、大腸菌抽出物に見られる還元酵素を化学的に阻害し、グルタチオン緩衝液で酸化還元環境を作り、DsbCやタンパク質ジスルフィドイソメラーゼといったタンパク質シャペロンを補充することで促進されます。

それ以来、S-S結合がとても重要な抗体をin vitroで細菌抽出物 (Cell-free production of scFv fusion proteins: an efficient approach for personalized lymphoma vaccines. Blood 2007)やチャイニーズハムスター卵巣細胞抽出物 (Development of a CHO-based cell-free platform for synthesis of active monoclonal antibodies. ACS Synth. Biol. 2017)を使って合成されています。

バイオセンサーと同じく、無細胞発現系を使った「工場」も凍結乾燥させることが可能です(Lyophilized Escherichia coli-based cell-free systems for robust, high-density, long-term storage. Biotechniques 2014)。この分野の先駆的な研究の1つを紹介すると、凍結乾燥抽出物から合成された抗菌ペプチド、ワクチン抗原、抗体類似体がその生物学的活性を維持していることが示されています (Portable, on-demand biomolecular manufacturing. Cell 2016)。

このシステムを使えば、必要な時に必要なものを作るということがバイオの世界でも可能になってきます。

例えば、生物学的製剤を必要な時点で迅速に生産するための流動的なプロセスが開発されています (A cell-free expression and purification process for rapid production of protein biologics. Biotechnol. J. 2016)。より最近では、半連続的にin vitro翻訳、ろ過、アフィニティータグ精製などを行うスーツケースサイズのプラットフォーム(BioMOD)が、約8時間で GCSF、ジフテリアトキソイド、エリスロポエチンを良好な品質で合成できることも示されています(Point-of-care production of therapeutic proteins of good-manufacturing-practice quality. Nat. Biomed. Eng. 2018)。

関連図書とサイト

この記事に関連した内容を紹介している本やサイトはこちらです。

無細胞発現系で細胞を理解する 【欧米の学校教育でも使われている】

バイオセンサーの仕組み 【FRETとBRET】

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