ホヤと呼ばれる海の動物は、血管のほんの一部から体全体を再生することができる。今回、血中にある特別な幹細胞集団その秘密の一端が明らかにされた。原題は「Primordial Blasts, a population of blood borne stem cells responsible for whole body regeneration in a basal chordate」だ。
ホヤは体を再生できる
ホヤは楕円形の、数センチの生き物だ。
味には賛否両論あるが、好きな人はすきだ。
ホヤは、進化的には魚や人間のように背骨のある「脊椎動物」の一歩手前、「脊索動物」と呼ばれるグループにいる。
つまり、背骨がない生き物の中では、ホヤは人間に最も近い生き物だと言っていいだろう。
2007年に、ホヤの1種である「Botrylloides leachii」が血管の一部からその体を再生できることが発見されていた ( 論文の原題は「Systemic Bud Induction and Retinoic Acid Signaling Underlie Whole Body Regeneration in the Urochordate Botrylloides leachi」)。
しかし、どの血管の断片のうちのどの細胞が体を再生しているのか、については研究が手付かずになっていた。
体の再生を行う細胞を特定
今回、研究者らは体の再生に関わる細胞集団を調べ、そして見つけることができた。血管にあるこの細胞に、研究者らは「Primordial Blasts」という名前をつけた。
これは幹細胞なので、さまざまな組織になることができる。
特定のクラゲやカメムシなど、ホヤよりもさらに原始的な無脊椎動物の多くは、体を断片から再生することができる。
しかし、脊椎動物は体全体の再生はできない。せいぜい、サンショウウオなどの一部が、失われた肢を再生する力があるくらいだ。
人間についても、肝臓だけは一部を切り取っても、ほぼもとの大きさに戻る能力があり、これを応用したのが生体肝移植だ。
今回の発見は、脊椎動物に限りなく近い脊索動物で、体全体を再生することができる細胞集団を見つけることができたという点で意義深いと思う。
この研究の展望
なぜ原始的な生物では体を再生でき、我々はできないのか?
最も可能性の高い説明として、より原始的な動物ではこの能力を持っていたが、どういうわけか、進化するにつれてその再生能力が失われてしまったのだろう。
この分野における最大の課題は、どうして再生する能力を失ってしまったのか、そして人が負傷したときにどのようにしたらそのような再生能力を発揮できるようになるのか、を理解することだ。
この発見は、体の再生能力がどのように進化したのかを理解するのに役立つだけでなく、長い目で見れば、それはまた人間の体で損傷を受けた、あるいは失われた臓器を再生させることにも繋がっていくのかもしれない。
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