痛みに鈍いマウス発見 【新しい種類の痛み止め?】
この記事のタイトルとURLをコピーする

痛みは体が出してくる警告信号だ。その警告を受けると危険を察知し、通常はその活動を止めることができる。

例えば熱いものを触ったらすぐに引っ込めるなどのように。

多くの生物は痛みを引き起こす物質を作ることによってこの危険を伝えている。

今回そういった痛み刺激に反応しないマウスが見つかりScience誌に報告された。論文の原題は「Rapid molecular evolution of pain insensitivity in multiple African rodents」だ。

ハダカデバネズミは進化的に痛みに鈍感

Source: https://matome.naver.jp/odai/2144356604296064201

 

唐辛子のピリッとした辛さの成分はカプサイシンというが、カプサイシンに鈍感なネズミがいる。

主にアフリカ大陸に住んでいるハダカデバネズミという種だ。普通のマウスの体は毛に覆われていいのかこのマウスはその名の通り気がない裸の状態で、出っ歯が特徴的だ。

これ自体は2008年に見つかったものだか、他の種類のネズミでは痛み刺激痛覚のないものは見つかっていなかった。

今回さらに研究を進めて、進化的に近い系統のマウスに、同じように痛みに反応しないものがいることが明らかになった。

新たな痛みチャネルNALCNの発見

Source: https://mindembody.com/capsacin-sideeffect/

具体的に研究者らは痛みを引き起こす三つの物質である酸、カプサイシン、アリルイソチオシアネートをマウスの足に注射した。

痛みを感じると普通のマウスは自分の足をなめるか足を大きく動かす。

しかしこれらの痛みに鈍いマウスはそのような行動を見せなかった。

なぜ痛みに対して鈍いのかを調べるために、これらのマウスの脊髄や、痛み刺激を伝える後根神経節という組織からサンプルをとり、約7,000の遺伝子の働き具合、活性を測定した。

その結果、いくつものイオンチャネルと呼ばれる特殊なたんぱく質が動いてることを見出した。

そのうち最も生物学的に面白かったのはNALCNと呼ばれるチャネルだ。これは痛みの神経が発火するのを大きく防ぐということが電気生理学的に証明された。

アリルイソチオシアネートなどの刺激物質は、これらの動物の主な餌である根の中に含まれているので、痛み刺激へ反応しないようにするというのは有益だ。

さらなる研究の結果、アリルイソチオシアネートの刺激は、アフリカにいる攻撃的なアリ (Natal droptail ant) に噛まれたときと似ていることがわかった。

自然界で生きていくためにも、これらの痛み刺激をシャットダウンするのは進化的に有利だったのだろう。

この研究は痛みとは何かという根本的なところに深く切り込み、新しい種類の痛み止めの開発に大きく役立つ。

まとめ

今回の話をまとめる。

  • ハダカデバネズミとその近縁種は痛みに鈍感
  • そのメカニズムとしていくつかのイオンチャネルが関与
  • NALCN遺伝子は痛み刺激が起きるのを防ぐ
  • 食べ物やアリの攻撃へ対処するため、進化的にシャットダウンしてきたのかも
  • 新しい種類の痛み止め?

幸いにして、我々人にもこのNalcn遺伝子は存在するので、今回の成果を新薬の開発につなげるのは比較的ハードルが低い。

非常に強力な新たな痛み止めの開発につながるかもしれない。
今日も【医学生物学領域のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

この記事のタイトルとURLをコピーする
生命医学の知識や進歩を無料のニュースレターで

がんをはじめとする病気やよくある症状などの医学知識、再生医療などの生命科学研究は、研究手法が大きく前進したこととコンピューターの発達なども相まって、かつてないほどの勢いで知識の整備が進んでいます。

生命医学をハックするでは、主として医師や医学生命科学研究者ではない方や、未来を担う学生さんに向けた情報発信をしています (より専門的な内容はnoteで発信中)。

月に1回のペースで、サイトの更新情報や、それらをまとめた解説記事をニュースレターとして発行しています。メールアドレスの登録は無料で、もちろんいつでも解除することができます。

サイト名の「ハックする」には、分かってきたことを駆使し、それを応用して、病気の治療や研究などにさらに活用していこうという意味があります。

生命医学について徐々に解き明かされてきた人類の英知を受け取ってみませんか?

こちらの記事もいかがですか?
ブログランキング参加中 (クリックしていただけると励みになります)