免疫系は侵入者に対する攻撃システムというのが一般的な理解だ。
今回、侵入者ではなく自分自身に作用する細菌の免疫システムが発見され、Nature誌に報告された。
原題は「Cas13-induced cellular dormancy prevents the rise of CRISPR-resistant bacteriophage」だ。
この記事の内容
細菌の免疫システム
ウイルスは自分自身では生存できない。より大きな生物に寄生し、そのシステムを借用して自分自身を複製するのだ。
寄生される側を宿主 (しゅくしゅ) という。
インフルエンザウイルスのように人を宿主とするウイルスもあるが、多くのウイルスは人を宿主としていない。
それぞれのウイルスに決まった宿主が存在する。
中には細菌を宿主とするウイルスもあり、ファージと呼ばれている。
宿主である細菌側も黙ってはいない。ウイルスと戦うために免疫システムを使っているのだ。
例えばCRISPR-Cas9システムでは、一度感染したウイルスを覚えておき、再度同じウイルスが感染してきたときにはウイルスのDNAやRNAを切断することで宿主を守る。
今回の研究論文の主役になるCas13という酵素は2015年に発見されたもの (Mol Cell誌) だ。
遺伝子編集技術において最もよく知られているCas9酵素と同じタンパク質ファミリーに属する。
遺伝子編集技術を使えば任意の遺伝子編集ができるが、もともと細菌がもつ免疫システムであるCasタンパクを応用したものである。
ウイルスなどの侵入者のDNAやRNAを切断することで感染に対抗しているCasを、任意のゲノム領域を切断できるようにしたのだ。
ほとんどのCasタンパク質とは異なり、Cas13はDNAではなくRNAを切断する。
Cas13はすでに強力な診断ツールとなってもいる。
Cas13を使用して、とても少ないウイルス量でも患者の血液中から迅速に鑑別する技術開発が進んでいる。
研究の概略
今回、研究者らはCas13がウイルスのRNAを標的にするだけではなく、宿主である細菌自身のRNAも広範囲に切断していることを見出した。
RNAがなければ、細菌は増殖や成長し続けることはできない、いわば冬眠状態になる。そしてこの状態では、細菌のシステムを利用しないと増えられないウイルスも増殖できないのだ。
つまり、Cas13による免疫系とは、侵入者のウイルス複製を阻止することで、他の細菌集団へウイルスが広がるのを防ぐ仕組みなのだ。
このメカニズムは、ウイルスの変異によって細菌が用意した免疫システムが効かなくなった時に特に有効だ。
まとめ
最後に今回の内容をまとめる。
- 細菌に感染するウイルスへの免疫システムの1つがCRISPR-Cas
- Cas13はウイルスのRNAを切断する
- Cas13は同時に宿主側のRNAも切断し、冬眠状態に追い込む
- 自身を冬眠させて集団にウイルス感染が広がらないようにする新たな免疫システムの発見
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