糖尿病には大きく1型と2型の2種類があり、インスリンが作られない1型の方や、2型でも重度の糖尿病の方はインスリン治療が行われるということを前回紹介しました。
[getpost id=”1209″ title=”関連記事” target=”_blank”]今回は、2型糖尿病の患者さんのうち、比較的軽度の糖尿病の場合に使われる経口薬 (飲み薬) について、どのように効くのかや副作用、注意すべき点などについて紹介します。
この記事の内容
経口の血糖降下薬
運動を行ったり食事改善をしても血糖値を十分には下げられない2型糖尿病の患者さんには、経口血糖降下薬が処方されます。
血糖を下げるホルモンであるインスリンが作られてはいるが、効きにくくなっている2型糖尿病では、経口薬で血糖値を下げることができます。経口薬にはいくつかの種類がありますが、「効き方」の観点からは大きく2つの種類があります。
つまりインスリンを作っている膵臓 (すいぞう) を刺激してより多くのインスリン産生を促す「インスリン分泌促進薬」と、体のインスリンへの反応をよくする薬「インスリン抵抗性改善薬」です。
最初のインスリン分泌促進薬は、スルホニル尿素薬(グリベンクラミドなど)やメグリチニド系薬剤(レパグリニドなど)が代表的であり、後者のインスリン抵抗性改善薬はビグアナイド系薬剤(メトホルミンなど)やチアゾリジン系薬剤(ロシグリタゾンなど)が代表的なお薬です。
これらとは異なるグループとして、腸内でブドウ糖の吸収を遅らせる作用があるグルコシダーゼ阻害薬(アカルボースなど)もあります。
それぞれのグループの代表例について、少し掘り下げて見ていきます。
世界一使われる糖尿病治療薬メトホルミン
世界中で最も多く処方されている糖尿病の飲み薬は「メトホルミン」で、年間では延べ1億人以上に使われています。とても安全な薬の一つで、極めて安価 (1錠およそ10円) です。
体のインスリンへの反応をよくする薬「インスリン抵抗性改善薬」に区分される「ビグアナイド系薬剤」の1つです。
メトホルミンは、世界保健機関 (WHO) が糖尿病の必須医薬品として選んだ、たった 4つの糖尿病薬のうちの1つです(他の3種類はインスリン製剤の2つと、この記事の後半で紹介するスルホニル尿素薬のグリベンクラミド)。
必須医薬品というのは、どんな貧しい人でも安全な薬を安価に入手することができるようにすべき、という理念で処方される薬です。
メトホルミンの歴史
メトホルミンのルーツは地中海沿岸に自生するガレガソウという植物です。乳を多く出す」という意味で、この草を食べた牛の乳生産量が増えることが知られていました。
ヨーロッパでは薬草として糖尿病治療に使われてきました。
20世紀の初めに、このガレガソウから「グアニジン」という物質が分離されました。
グアニジンは実験動物の血糖値を下げることができたのですが、同時に毒性もありました。そこで研究者たちはグアニジンを2個結合させることで、より安全なものにすることにしたのです。ビグアナイド(biguanide)とは、bi(2個)のguanidine(グアニジン)という意味です。
「メトホルミン」はこのビグアナイドの一つで、他にもいろいろありました。メトホルミンが初めて合成されたのは1929年のことです。
アメリカではビグアナイド薬としてメトホルミンではなくフェンホルミンというのが使われていましたが、重篤な乳酸アシドーシスという副作用のため、ビグアナイド薬全てが使用中止になりました。
メトホルミンは、その副作用は極めてまれにしか起きないのですが、連帯責任を取らされた形で30年以上も使用されない期間が続きました。
その後、数々の試験を経て有効性や安全性が証明され、最終的に日本では1961年から、アメリカでは1994年からメトホルミンが再度使われるようになりました。
メトホルミンはなぜ血糖を下げるのか
メトホルミンは、肝臓で新しく糖が作られるのを抑え、インスリンが効きやすくする効果があります。
短距離走など一時的に筋肉を激しく使うと、筋肉ではエネルギー源としてブドウ糖を使い、乳酸という物質になります。
筋肉などで作られた乳酸は肝臓に運ばれ、そこでブドウ糖に戻されます。
空腹時や飢餓の時には、乳酸の他にも中性脂肪やアミノ酸からも体が必要とするだけのブドウ糖を作ります (糖新生)。メトホルミンはこの糖新生にブレーキをかけることで血糖値を下げるので、乳酸はたまっていくことになります。
もし腎臓が悪く、メトホルミンが正常のように尿として排泄できなくなると、体に溜まっていきます。これが「乳酸アシドーシス」です。
ただ他のビグアナイド剤と異なりメトホルミンでは乳酸アシドーシスは稀であり、安全な薬剤として世界中で使われています。
もう1つの必須糖尿病薬スルホニル尿素
必須医薬品のもう1つは、スルホニル尿素薬 (SU薬) というグループです。
第2次世界大戦で、腸チフスという感染症の患者さんに投与された新しいサルファー剤(IPTD)が副作用として重篤な低血糖を引き起こしました (1942年)。この予想外の副作用がSU薬の発端になったのです。
正常では膵臓のベータ細胞からインスリンが分泌されているのは前述したとおりですが、SU薬はこのベータ細胞に働きかけてインスリン分泌を促すのです。
その後1万種類を超えるSU薬が試験的に作られ、改良が重ねられて、今でも使われている10種類ぐらいに落ち着きました。
日本では1950年代から60年代にかけて、第1世代スルホニル尿素薬と言われるものが使われるようになりました。
第1世代
トルブタミド(商品名;ヘキストラスチノン、ジアベン、ヂアベトース1号、ブタマイド)
グリクロピラミド(商品名;デアメリンS)
アセトヘキサド(商品名;ジメリン)
クロルプロパミド(商品名;アベマイド)
その後、血糖降下作用が100倍異常強力な第2世代が開発されました。
第2世代
グリブゾール(商品名;グルデアーゼ)
グリクラシド(商品名;グリミクロンHA、クラウナート、グルタミール、ダイアグリコ、ファルリンド、ベネラクサー、ルイメニア)
グリベンクラミド(商品名;オイグルコン、ダオニール、オペアミン、クラミトン、ダムゼール、パミルコン)
そして今は次の第3世代と言われるものも使われるようになっています。
第3世代
グリメピリド(商品名;アマリール)
メトホルミンとSU薬以外の飲み薬
この記事では、古くから開発され今でも使われている糖尿病薬について紹介しました。
2000年代に入って、全く違うメカニズムで作用する新しいタイプの薬も使われるようになってきました。
長くなるので、別の記事でこれらをご紹介します。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 経口糖尿病治療薬には、インスリンの効き目を改善するものと、インスリン分泌を増やすタイプの大きく2種類がある
- メトホルミンは最もよく処方されている糖尿病治療薬
- SU薬と呼ばれるカテゴリーの薬は、インスリン分泌を増やす
今日も【医学生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。