プリプリントサーバーbioRxivのメリット 【活用法の話】
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執筆者
【生命医学をハックする】運営者 (@biomedicalhacks)。生命科学研究者、医師・医学博士。プロフィールはこちら

研究成果を論文にまとめ、雑誌に掲載してもらうことでそれを広く社会に還元できます。

しかし近年では、「雑誌」ではなくネット上のプリプリントサーバーにアップするケースも増えています。
この記事ではプリプリントサーバーのメリットについて考えてみます。

プリプリントサーバーとは

研究論文を投稿すると、同分野の専門家のチェック (査読) が入り、合格したものが最終的に論文としてその雑誌に掲載されます。

従来、生命医学系の研究者にとってこれが普通の発表方法でした。

しかし近年では、完成した論文を専門家のチェックが入っていないプレプリントのかたちで公開サーバーにアップロードし、読んでもらうということが盛んに行われています。

もともと、これは数学や物理では昔から一般的な慣習でした。それが生命医学に入ってきた形になります。

生命医学系の研究は、一昔前は実験的に不可能だったことも急速にできるようになっており、そのため論文に求められるデータの量・質ともに高くなっています

そのため、査読した専門家 (レビューワー) からたくさんの追加実験を要求されることも多く、論文が完成してから実際に雑誌に掲載されるまで年単位でかかることも珍しくありません

その間に他のグループに先を越されて発表される可能性もあるのです。

プリプリントサーバーに先に投稿しておけば、プライオリティの取得を行うことができ、併せて読者からフィードバックを得ることもできます

これが生命医学系の研究にプリプリントサーバーが使われるようになっている一番の理由です。

bioRxiv

生命医学系で特に有名なのはbioRxiv (バイオアーカイブ)です。
https://youtu.be/EwAMtT3ZIpg
bioRxiv to Journals (B2J) イニシアティブといって、bioRxivは多くの著名な生命科学系の学術雑誌と提携しているので、いったん投稿しておけば、提携雑誌へ投稿する時に自動的にデータをその雑誌に移動できます。

例えばScienceやJCI、PNASなどはその雑誌のスタイルにフォーマットを変換しなくてもbioRxivから直接transferできるのです。

bioRxivに投稿すると原則として翌日には公開されます。

もちろんプリプリントサーバーに投稿することはメリットだけではありません。デメリットもあります

雑誌によっては投稿前にbioRxivでの公開を許さないところもありますし、例えばOxford Journal系の雑誌は、オープンアクセスとしてしか投稿できない場合もあります (すでに公開サーバーに置いていた原稿だから)。

各雑誌のポリシーはもちろんそれぞれの雑誌のサイトを確認すべきですが、こちらのサイトなどでまとめて確認できます。

bioRxivを使ってレフリーの練習をする

研究室の論文セミナーなどで、プレプリントサーバーにアップされた論文を選んで紹介するというスタイルのゼミも増えています

論文のレビューワー(査読者)になったつもりで内容を吟味することで、研究キャリアの早い時期に論文のレビューワーを体験できます。

特にアメリカではプレプリントをつかったレビューワーの練習が学生教育で盛んになってきています。

そうでなくても、学術誌に掲載されるよりもずっと早く最新の成果を把握できるので、通常のPubMed検索だけではなくプレプリントサーバーも調べてみるといいでしょう。

プリプリントサーバーに掲載された注目論文

preLightsというサイトは、生物関係のおすすめのプレプリント論文が紹介されています。

Peer Community Inは、プレプリントサーバに原稿を投稿した著者が、原稿を読んでもらうよう依頼するサイトです。

このサイトが原稿を独自に査読にまわすかどうか決め、査読にまわれば匿名のレフリーが査読します。

査読がOKになったらこのサイトで公開されるという仕組みです。doiもわりふられるので、早いうちに業績としてPRできます

特に若手の研究者の場合、論文が少ないので研究費を獲得したり、次の職を得るのが難しいと感じる人が増えています。このサイトでdoiが割り振られることで、正式な業績ではないものの研究成果をPRする機会になるということです。

プリプリントサーバーのメリット

プレプリントのメリットは、いろいろあります。

1) グラントの申請や業績報告書にプレプリントを掲載することができる組織が急激に増えています。

上にも書きましたが、就職活動や新しい研究費の申請のときに、業績としてプレプリントが使えるようになっているのです。この流れは特にアメリカで顕著で、例えばHuman Frontiers Science Programでもプレプリントが利用できます

“The Board of Trustees of the International Human Frontier Science Program Organization (HFSPO) has decided that for competitions starting in calendar year 2017, applicants may list preprint articles in the publication section of HFSP proposals. Current HFSP awardees are also permitted to cite publications which are deposited in freely available preprint repositories in interim and final reports to the Organization.”

他にもWellcome Trust , MRCやNIH, HMMIなど大手のグラント母体もプリプリントOKです。

2) フィートバックがくるので論文を改善でき、それをもとに雑誌に投稿できます。

3) 雑誌の編集者はプレプリントをみているので、プレプリントをみて招待されることも結構あるようです(特にPLos Geneticsなど)。

4) 研究の早い段階でプレプリントをみて連絡してくる共同研究者が見つかる例も多いそうです。

プリプリントサーバーに投稿するということで最も不安なことは、その研究が他のグループにパクられることです。

しかしこれは簡単にはできません。論文の内容をみて、それをもとにより優れた論文を書くのはほぼ不可能だと思います。投稿日もバージョンも公開されているので剽窃は困難です。

物理やコンピュータサイエンスの分野でのプレプリントの経験から、スクープするのは極めて困難です。

他の分野のプリプリントサーバー

もともとプリプリントサーバーは物理やコンピューターサイエンス領域のarXiv (アーカイブ)が選考していました。

その知見をもとに、生命科学バージョンとして2013年に作られたのがbioRxivです。

さまざまな分野でプリントサーバーを用意する動きはますます加速しており、2017年には化学用のChemRxiv (ケムアーカイブ)、そして2019年には臨床医学系のmedRxiv (メドアーカイブ)が誕生しました。

今後もますますプリントサーバーの重要性は増していくでしょう。

研究成果をたくさんまとめてプリントサーバーに投稿し、フィードバックを受けて質も高めていきたいですね。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • BioRxivに投稿した論文を研究業績として認められるケースが増えている
  • プリプリントサーバーを教育に使う動きも米国で盛ん
  • 他分野の動向をいち早く知る上でとても有用

今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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