医学部の授業内容とカリキュラム【体験談】
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医療ドラマの影響もあって、しばしば医学部ではどんな勉強をするのか聞かれます。また、医学部への進学を目指す高校生の方にとっても興味があるところでしょう。

そこでこの記事では一般的な医学部の授業内容について体験談をもとにお伝えします。

大学の医学部の中には、看護師や検査技師といった医療を支える専門職になる学生さんが通う医学部保健学科などもありますが、ここでは医師を目指す学生が集まる医学部医学科のカリュキュラムを紹介します。

1年生

大学受験に晴れて合格した新入生が入学しても、いきなり医学の専門教育が始まるわけではありません。

大学1年生は教養を身につける時期と考えられていて、経済学や社会学などの文科系科目や、あるいは体育も含めて、多くの授業を他学部の学生さんと一緒に受けることになります。

ある程度の必修科目はあるものの、それ以外は自由に授業を選択することができ、最低限の単位を取れるなら他の時間は好きに使うこともできます

この時期の医学生に特徴的なカリュキュラムとしては、多くの大学で介護福祉施設での実習が義務付けられていることです。実際に大学から指定された近隣の施設を訪問させていただいて体験させていただくことになります。もちろんいきなり行っても何もできないので、事前に介護についての勉強や、代表的な病気についての調べ学習、あるいは万が一の時に備えて救命講習などを受けてから訪問させていただくことになります。

将来的に医学の最先端の情報は英語でキャッチしないといけないので、早いうちから英語の勉強も求められます。ある程度のスコアを満たすまでTOFEL等の受験が義務化されていることも珍しくありません。

第2外国語は一昔前の先生はドイツ語が必修でしたが、今は好きな外国語を選ぶことができます。それ以外に第3外国語としてラテン語の授業 (医学用語の多くは古くはラテン語由来です)も開講され、希望者 (クラスの半数くらい) は受講できるようになっています。ラテン語については生命医学・医学領域のラテン語の必須知識 【現代にも残る単語の由来】に概要をまとめています。

1年生の後半になると、生命科学の専門的な講義 (分子生物学や細胞生物学) もスタートします。

2年生

2年生になると本格的に専門教育が始まります。1年生は他の学部の学生さんと同じキャンパスでしたが、2年になると病院がある別のキャンパスに異動になり、大学によっては2つのキャンパスが離れているのでこのタイミングで再度引っ越しをするケースも少なくありません

医学教育は大きく基礎医学・社会医学・臨床医学の3つの分野に分かれていますが、まずは基礎医学からのスタートです。

医学の基本の「き」は解剖学です。体の構造についての知識は、真っ先に勉強しなければなりません。

肉眼解剖学脳解剖学という2つの授業では、座学で勉強した後、実際のご献体を使った解剖実習があります。覚えるべき知識は膨大で、例えば「骨」だけでも人体には200を超える骨があり、それぞれの名前だけでなくその骨の突起やくぼみにつけられている名前も覚えなければいけません。

肉眼的な構造の他に、顕微鏡での構造も大事です。組織学という授業では、それぞれの臓器が顕微鏡でどのように見えるのかということを勉強します。多くの場合は座学の後に実際に顕微鏡で見て、スケッチしたものを毎回提出することになります。

体の構造だけでなく機能も重要です。生理学という科目では、例えば腎臓はどのように尿を作っているのかとか、肺はどうやって酸素を出し入れしているのか、体温はどのようにコントロールされているのかという、正常の体の機能について学んでいきます。

できあがった体ではなく、そもそも体がどのようにできていくのかを調べる学問が発生学です。受精のしくみや、受精卵が子宮に着床して産まれるまで、各臓器が受精卵のどこに由来してどのように形成されていくのか、について学びます。

医化学 (あるいは生化学) という学問は、体の中で起こるさまざまな化学反応を勉強する学問で、例えばブドウ糖がどのように細胞の中でエネルギーに変換されていくのかについて、その化学式も含めて学習します。

放射線基礎医学
という科目では、放射能が人体にもたらす影響について勉強します。

医学部の専門科目は1年生の頃のように自分で授業を選択するわけではなく、全て必修科目です。高校の頃の延長で、時間割があらかじめ決められており、座学ではその時間になると担当の先生が教室に入ってくる形になります。

全て必修ということは1科目でも落とすと留年するので、1年生の頃と比べてずっと忙しくなります。

3年生

2年生では病気ではなくまずは正常についての勉強でしたが、3年生になると正常の破綻としての病気が少しずつ出てきます。

例えば病理学は、正常の体についての解剖学・組織学・生理学の破綻を探求する科目で、何がおかしくなるとその病気になるのか、その病気はどういう状態 (病態) なのかを学びます。

薬理学も生理学や生化学をベースにしていて、化学物質としての薬がなぜ効くのか、どこを標的にした薬なのかについての学問的なことを勉強する科目です。

この薬理学と病理学は高学年での臨床医学と密接につながっているだけにボリュームも多く (教科書はそれぞれ1000ページ近くあります)、2年生の後半から1年がかりで勉強する大学も少なくありません。

免疫学微生物学は表裏一体の学問で、どのような微生物学 (細菌・ウイルス・真菌・寄生虫など) がいてそれぞれどのような感染症を引き起こすかや、それを正常の体が察知して退治する仕組み (免疫)について学びます。

また、この3年生で基礎医学が終わりになるため、この時期で基礎医学系の研究室配属があり、数ヶ月 (1ヶ月 ~ 4ヶ月程度) 先生方に1対1で教わりながら医学研究の経験を積ませる大学が多いです。

4年生

4年は臨床医学がスタートします。これは病院に行くとある~ 科を1年で全て詰め込むというハードな時期です。

循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、神経内科、血液内科、感染症内科、腎臓内科、内分泌内科、腫瘍内科。

もちろん外科系も全部です。

心臓血管外科、呼吸器外科、脳外科、消化器外科など。

それ以外にも大事な産婦人科、小児科、眼科、耳鼻科、皮膚科、整形外科、形成外科、泌尿器科、放射線科、麻酔科、精神科、心療内科、漢方内科などもあります。

知識の詰め込みだけでなく、症例を出されてその患者さんの病気をグループで討論してあてていく臨床推論などの実習もあります。

基礎医学・臨床医学の他、もう1つの大きな柱である社会医学についても学びます。具体的には公衆衛生学医療管理学 (医療法など)、法医学 (死因の推定、変死体の死亡時期推定など)、産業医学 (労働災害など)、医療統計などです。

医学生生活の中で最もテストが多いのがこの4年生で、あまりに多くまとめて試験ができないので毎週1~2科目ずつテストがあります。土日だから勉強は休み、というのはできません (ちなみに試験は毎週月曜日の17時からに設定されていました)。

1年間ずっと勉強し続ける必要があるということです。

CBT/OSCE

4年生の終わりにはCBTOSCE (オスキー) という別のテストがあります。

普通のテストは大学が実施するものですが、CBTとOSCEは国が実施する試験で、一種の「仮免許試験」です。

CBTはコンピューターが出題する問題にオンラインで答え、一定の得点をとると合格するもので、OSCEは実技試験で医療面接 (診察の前に患者さんの話を聞いて必要な情報を引き出していく) と基本的な診察、外科の基本的な手技 (傷の模型を縫うなど)、救急 (心臓マッサージやAED) について模擬患者さんやシミュレーターによる試験が行われます。

知識を問うCBTと実技試験であるOSCEに両方とも合格すると、5年に進級になります。

5年生

4年までは座学がメインでしたが、5年生の舞台は大学病院です。少人数のグループごとに、各診療科を1年間かけて回って、その科の実臨床を学びます。

座学ではないので試験はありませんが、実際の患者さんのご協力を得て主治医の先生と一緒に患者さんを受け持ちさせていただき学生専用の勉強用カルテを書いて先生の指導を受けたり、本でしか見たことなかった検査や処置を見学させていただくことになります。

全ての科を回るため1つの科は2-3週ほどしか経験できませんが、将来的にその科を選択しなければこれが最後の経験になるのでとても大事な時期です。

6年生

最終学年である6年では、自分で学ぶものを決めます。5年までで全ての科を見たわけですので、その中から興味のあるものを選んでさらに追加で実習することができます。あるいは逆に、苦手な科目や将来的に進まないけどもっと知っておきたい科を選ぶこともできます。

臨床医学だけでなく基礎医学や社会医学の教室に行くこともできます。

6年生の授業は夏までで終了で、秋には卒業試験が行われます。これは今まで学んできた専門科目をまとめてもう一度試験をするもので、冬に控える国家試験の前哨戦とも言えます (当然ながら落ちると卒業で見込みにならず、国家試験も受けられません)。

実際、私立大学の多くは卒業試験の判定を少し厳しくすることで国家試験に合格する可能性の高い学生のみを卒業させ、国家試験合格率を高くする傾向にあります。

6年の夏以降の医学生はみんな少なくとも1日10時間は勉強しています。大学受験の頃と同じような生活が国家試験が終わるまで半年 ~ 1年ほど続くことになります。

そして2月になると、いよいよ医師国家試験です。全国で限られた会場 (例えば東北や九州にはそれぞれ1箇所しかありません) に周辺の医学生が集まり、3日間かけて行われる試験です。

国家試験の合格率は他の試験に比べ高いので簡単な試験だと思われがちですが、実際にはそうではありません。

大学合格後もこのように6年間にわたる専門教育や実習をこなし、特に最後の1年は毎日10時間以上勉強して、大学の卒業試験で実力充分と判断された学生しか受験できない試験だからこそ合格率が高くなるのです。

最後に、国家試験は決してゴールではありません。むしろ医師としてはこれがスタートで、次は研修医としての修行が続くのです。

医学生が一人前の医師になるのは、まだ当分先の話です。

関連図書

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今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。

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