プラスミドの基礎 【よく使うプラスミドベクターも】

細菌とともに増殖するプラスミドは、遺伝子クローニングの重要なツールでこれまで多くのベクターが開発されてきました。

この記事では、代表的なプラスミドベクターを実験が初めての学生さん向けにまとめます。

そもそもプラスミドとは

プラスミドは環状の2本鎖DNAで、染色体外の遺伝物質として菌類が持っているという話はご存知の通りで、プラスミドの数 (コピー数) は一定に保たれています。

例えば、大腸菌の代表的なプラスミドにはこのようなものがあります。

プラスミド サイズ (kbp) コピー数 プラスミドの特徴
ColE1 4.2 10 ~ 15 バクテリオシン (コリシンE1) 産生
RSF1030 6 20 ~ 40 アンピシリン耐性
R6K 25 10 ~ 40 アンピシリン・ストレプトマイシン耐性
R 62.5 3 ~ 6 さまざまな薬剤耐性遺伝子
F 62 1 ~ 2 稔性因子

細胞にプラスミドは複数存在し、Fプラスミドなど少ないものは1~2個しかありません。これは厳格複製 (stringent replication) 様式をとっているからで、プラスミドの複製・分離は染色体の複製と同じ制御を受けているためプラスミドが勝手に複製できないようになっています。

その一方で多くのプラスミドは厳しい制御から自由な緩和複製 (relaxed replication) 様式なので、多いものでは細胞に数百コピーもあることがあります。

2つの種類のプラスミドが同じ細胞内に存在することもあります。もしその2つのプラスミドが全く異なる複製制御にあれば共存でき、この2つは和合性 (compatibility) といいます。

しかしもし同じ複製制御下にある場合には、やがては1種類のプラスミドのみが優勢となっていきます。このような場合は2つのプラスミドが不和合性 (incompatibility) といいます。

プラスミドベクター

もともと菌類が持っていたプラスミドを遺伝子クローニングのために改良したのがプラスミドベクターです。

ColE1系

多コピーで小さいという使いやすさの観点からColE1由来のプラスミドがよく使われています。

約6 kbのColE1系プラスミドは、抗生物質であるコリシンE1を産生する大腸菌から単離されました。ColE1系プラスミドに由来するベクターはいろいろな種類がありますが、その中でもColE1由来のプラスミドベクター (pMB9) にアンピシリン抵抗性のマーカーを持つトランスポゾン (Tn3) を導入して作成されたpBR322 (4.3 kb) は現在使われている多くのプラスミドの大本になっています。

pBR322は緩和複製形式で増えるので、大腸菌の中では1細胞あたり15-20コピーほど存在します。また、タンパク質合成阻害剤クロラムフェニコールを加えて宿主大腸菌を殺し、さらに数時間以上培養を続けると、大腸菌が死んでからも大腸菌のDNAポリメラーゼを使って複製し続けるためプラスミド数は数十倍にも増幅されることが知られています。

pBR322の改良版であるpUCベクター系 (pBlueScript IIなど) は、ColE1複製制御系の抑制ユニットを除いているためさらにコピー数が増えて、通常の培養条件下でも500-700コピーと高いコピー数を示します。

R因子系

最初に見つかった抗生物質耐性因子は、耐性 (resistance) という意味でR因子と命名され、それを運ぶプラスミドはRプラスミドと呼ばれました。

Rプラスミド (約100 kb) は厳格な複製制御を受け、大腸菌内では1細胞あたり1コピーしか存在しません。コピー数が少ないことやサイズが大きいことから、生命科学実験ツールとして使われることは多くありませんが、自然界で抗生物質耐性株が出現する仕組みにもつながることからぜひ知っておきたいです。

プラスミドからプラスミドベクターへ

初期の遺伝子組み換え実験で使われたプラスミドベクターpSC101は長さ8.7 kbと大きく、大腸菌内に1-2コピーしか存在できないもので、大量のプラスミドDNA調製ができなかったので、コピー数の多い緩和型プラスミドベクターpBR322 (4.3 kb) が開発されました。

今日の多くのプラスミドベクターはpBR322をさらに改変したもので、サイズを小さく ( ~ 3 kb) したり、1本鎖DNAがとれるようにf1ファージの複製起点を含めたり、RNAポリメラーゼのプロモーター (T7/T3) や制限酵素部位を集中的に持つmulticloning site (MCS) を挿入し、さらにプラスミドDNAの収率をあげたベクターが使われています。

さらにα相補の原理を応用して、β-ガラクトシダーゼをコードするLacZ遺伝子の一部をもたせたベクターも開発されています。「残りのlacZ遺伝子」を持つ宿主大腸菌に形質転換すると、lacZ遺伝子が完成し、プレートに入っているX-galを基質として青いコロニーができるという仕掛けです。

このlacZ遺伝子の「一部」はMCSに用意されているので、目的の遺伝子がクローニングされるとlacZが壊れ、青くならずに白いままというブルーホワイトクローニングでインサートが入ったコロニーが分かります。

代表的なプラスミドベクターを簡単に紹介します。

pBlueScript II

pBlueScript IIはカラーセレクションができ、MCSの両端にT7とSP6のファージプロモーターがあるのでRNA調製をすることも可能なプラスミドです。

市販されているプラスミドベクターにはSKとKSという大きく2種類ありますが、これらはMCSの方向が逆になっているものです。

pcDNA

pcDNAシリーズはThermoFisher社が販売している哺乳類細胞用の発現ベクターです。CMVのプロモーターとエンハンサー、ウシ成長ホルモンのポリAシグナルを持っています。

また、SV40 originがあるのでHEK 293T細胞などのT抗原を産生する細胞内でプラスミド自体が増幅され、効率よく発現させることができます。

pET

pETはT7プロモーターを持つpBR322由来の組み換えタンパク発現プラスミドです。

興味のある遺伝子断片をクローニングしておきBL21 (DE3) などのホストとなる大腸菌に形質転換した後、IPTGで宿主のT7 RNAポリメラーゼを誘導させると、pETにクローニングした断片の転写と翻訳が起こる (誘導できる) ようになっています。

pGEX

pGEXプラスミドも誘導性の組み換えタンパク発現プラスミドです。IPTGで誘導をかけることができ、タンパクはGST (glutathione S-transferase) 融合の形で発現されます。

このGST部分は除くことができるようになっていて、pGEX-2Tではトロンビン、3Xはfactor Xで切断できます。

プラスミドベクターの構築方法

プラスミドベクターにどのようにクローニングしていくか、最初にきちんと計画を立てることが大事です。プラスミド管理ソフトウェア8選 【プラスミドの図の作成もできる】にもまとめましたが、幸いそのようなデザインに役立つツールがあるので賢く設計することができます。

一昔前は、制限酵素とラーゲーションの組み合わせで文字通り「切り貼り」していくものでしたが、現在はそういった従来の方法に頼らない新しい方法もあります。これらの新しい方法はまだ実験の入門書には載っていませんが、クローニングの方法まとめ 【制限酵素だけではない】知っておきたいプラスミド構築プラットフォーム 【DNAアセンブリ】にまとめているので、もしよければこちらも合わせてお読みください。

関連図書・サイト

この記事に関連した内容を紹介している本やサイトはこちらです。

プラスミド管理ソフトウェア8選 【プラスミドの図の作成もできる】

クローニングの方法まとめ 【制限酵素だけではない】

知っておきたいプラスミド構築プラットフォーム 【DNAアセンブリ】

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。