日本人が発見したオートファージを使って、膵がんを「兵糧攻め」する新しい治療法が治験に入った。
この記事の内容
オートファージは細胞内の掃除をするシステムである
オートファジーは、簡単に言えば細胞の中の余計なものを細胞自体が取り除くシステムである。
古くなったり壊れたりした細胞内の小器官は、これにより除去される。
単に除去するのではなく、そこからさらにタンパク質の材料を作り出している。
むしろこの「体の中」からくる材料の方が、食事による「体の外」からの材料よりもずっと多い。
このオートファジーのメカニズムの発見に関して大隅良典 先生に2016年ノーベル生理学・医学賞が与えられたが、その根底にある分子の詳細はまだ不明である。
このオートファジーを抑える (阻害する) ことで、新たな材料を作り出せなくする、いわば「兵糧攻め」にする新たながん治療がマウス実験レベルで確かめられた。
オートファジー阻害による膵がん細胞の「兵糧攻め」
Kimmelman研究室が主導した膵がん (膵管腺がん) の研究においては、がん細胞が高いレベルのオートファジー能を持つことが判明した (「Pancreatic cancers require autophagy for tumor growth」)。
オートファジーによってこのがんの増殖が続くので、オートファージは膵がんの潜在的な治療標的となりうることを示している。
実際、オートファジーに関わる遺伝子を欠損させると膵がん細胞の増殖が抑制され、オートファジー阻害剤としてクロロキンを使った実験も行なっている。
2014年に彼らは患者由来の膵がん細胞を移植した動物モデルにおいて、クロロキン誘導体であるヒドロキシクロロキン(HCQ)の抗腫瘍効果を示した(「Autophagy is critical for pancreatic tumor growth and progression in tumors with p53 alterations」)。
オートファージと膵がんの臨床試験が行われる
この研究は、膵がん患者におけるHCQを使った複数の臨床試験につながった。
そして、膵がん患者の術前治療において古典的な抗がん剤であるゲムシタビンおよびナブパクリタキセルとHCQを併用すると外科手術後の予後改善する(NCT01978184)といったことが分かった。
オートファージと膵がんの分子的基盤をよりよく理解するために、今年に入り膵がん関連遺伝子であるKRASやその下流にあるERKを薬で抑制すると膵がんのオートファージへの依存度を高めることが判明した。
つまりERK阻害を組み合わせることで、膵がん細胞をHCQによるオートファジー阻害に対してさらに感受性にし、がん細胞増殖を相乗的に抑制することができる (「Combination of ERK and autophagy inhibition as a treatment approach for pancreatic cancer」)。
別の研究室からの報告も同様のデータが示されている(「Protective autophagy elicited by RAF→MEK→ERK inhibition suggests a treatment strategy for RAS-driven cancers」)。
オートファージとERKの阻害剤の併用が新たなステージへ
これら2つの研究を受けて、新たな治療戦略として臨床試験が開始された(NCT03825289)。
これらの結果は、膵がん患者の効果的な治療法の開発につながりうる。