ウェスタンブロットの転写 (トランスファー) 方法【タンク式とセミドライ式】
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ウェスタンブロットは、タンパク質実験で最もよく使われている方法の1つでしょう。

ウェスタンブロッティングは、タンパク質の電気泳動、膜への転写、そして目的のタンパクの検出という大きく3つのステップからなりますが、この記事ではそのうちの膜への転写について、少し掘り下げて解説します。

転写に使う装置とバッファーと膜

ウェスタンブロット (ウェスタンブロッティング) は、SDS-PAGEの後に、タンパク質を膜 (メンブレン) に移し (転写, トランスファー) し、抗体を使って目的のタンパク質を検出する方法です。

SDS-PAGEによる電気泳動については、長くなるので別の記事にまとめています。

関連記事SDS-PAGEの原理とプロトコル 【その他のタンパク泳動方法も】

SDS-PAGEの次にやることは、ゲルからメンブレンにタンパクを転写することです。具体的には、専用の装置を使ってタンパク質を電気的に移動させます。

ブロッティングと呼ばれるこの操作には、セミドライ式の装置とタンク式の装置が利用可能です。

https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/chemiluminescent-westernblotting-guide/

セミドライ式は、転写を短時間で行うことができ、バッファーの使用量も少ないというメリットがありますが、高分子量のタンパク質の転写効率が悪いという弱点もあります。

タンパク質が高分子である場合は、タンク式の方が転写効率は高いです。

転写に使用するバッファーは、pH 8前後のものがよく使われていますが、高分子量 (>120 kDa) のタンパク質はゲルとの相互作用が強くゲルから離れにくいので、これをセミドライ式で転写するにはアルカリ性の転写バッファーを使った方がいいと言われています。

アルカリ性転写バッファーの弱点は、低分子量のタンパク質がメンブレンから抜けやすくなってしまうということです。

転写バッファーに入れるメタノールはゲルの安定剤で、ゲルの膨張を防いでいます。通常は転写バッファーの20%がメタノールですが、高分子量のタンパクを見たい場合は10%にします。これによりゲルが緩み、ゲルからタンパク質が溶出しやすくなります。

よく使われているメンブレンには、ニトロセルロース膜PVDF膜がありますが、どちらを使うかは好みの問題です。

PVDF膜は、少し高価ですがタンパク質との吸着力がより強く破れにくいので、リプローブ (抗体を剥がして別の抗体で検出すること) する場合などに向いています。

転写が終わったら、抗体反応をする前にメンブレンを可逆的にタンパク質に結合し容易に脱色できるPonceau S (ポンソーS) などで染色し、転写がうまくいったかどうかを確認することもできます

セミドライ式による転写方法

1. PVDF膜を使う場合は、使用前にメタノールに1分間以上浸した後に転写バッファーにつけておく。ニトロセルロース膜の場合は、メタノールにつけないでそのまま転写バッファーに浸す。

参考通常の転写バッファーの作り方
グリシン 14.4 g, トリス 3 g, メタノール 200 mLにMilliQを加えてtotal 1 Lにして室温保存。
最終濃度はそれぞれ192 mM, 25 mM, 20%。
メタノールを加えた後に熱が出るので、SDS-PAGEが始まった頃くらいのタイミングで作成しておき、転写の時には室温になるようにしておく。
参考高分子量タンパク用の転写バッファーの作り方
100 mM CAPS (pH 11) 100 mL, メタノール 100 mLにMilliQを加えてtotal 1 Lにして室温保存。
最終濃度はそれぞれ10 mM, 10%。

2. プラスチックのケースの中で、プラス極の電極の上に転写バッファーに浸したろ紙3枚をおき、その上にメンブレン、そしてゲルを泡が入らないように重ねる。

濾紙が必要以上に大きいと電流の一部がゲルを通過しないで流れてしまうため転写効率が悪くなる。そのため、なるべくゲルの大きさに合わせて濾紙を切った方がいい。

転写バッファーに浸したろ紙を3枚乗せ一番最後にマイナス極をのせる。

3. 100 mAで1時間通電する。タンパクはプラス極側に泳動される。

4. 電源をきり、メンブレンをMilliQにつける

5. メンブレンをPonceau S染色液に約1分間ひたす。

参考10 x Ponceau S染色液の作り方
トリクロロ酢酸 30 mL, サリチル酸30 g, Ponceau S 2gにMilliQを加えてtotal 100 mLにして室温保存。
最終濃度はそれぞれ30%, 30%, 2%。

6. 染色液を回収し、マークが見えるようにメンブレンをMilliQで軽く洗う

7. マーカーの位置に鉛筆で印をつけた後、Tween-PBSで浸透し、脱色する (5分 x 3回)

タンク式ブロッティングの方法

タンク式はバッファーの使用量が多く、しかもバッファーを冷却しないといけないなど面倒な点もありますが、綺麗な像が得られるという利点もあります。

セミドライ式では熱が発生して転写にムラが出来やすいという弱点がありますが、ですがタンク式ではまんべんなく転写されます。

1. PVDF膜を使う場合は、使用前にメタノールに1分間以上浸した後に転写バッファーにつけておく (セミドライ式と同じ)。

2. SDS-PAGEをした後の分離ゲルを転写バッファーに浸しておく。

3. タンク式ブロッティング装置のゲルホルダーカセットの片側にスポンジをのせ、その上に転写バッファーに浸したろ紙を1枚のせる。

4. ろ紙の上に、メンブレン、ゲル、転写バッファーに浸した濾紙1枚の順にのせていく。

5. 上からスポンジをのせ、ゲルホルダーカセットを閉じる。タンク式装置に下側がプラス極になるように向きに気をつけて設置する

6. スターラーバーと容器に入れた氷もセットし、転写バッファーを上から注いだ後、電極を取り付けタンクをスターラーの上に置く。

7. 100 mAで30分通電し、300 mAに電流をあげてさらに30分通電する

ここから後はセミドライ式と同じ。
8. メンブレンをPonceau S染色液に約1分間ひたす。

参考10 x Ponceau S染色液の作り方
トリクロロ酢酸 30 mL, サリチル酸30 g, Ponceau S 2gにMilliQを加えてtotal 100 mLにして室温保存。
最終濃度はそれぞれ30%, 30%, 2%。

9. 染色液を回収し、マークが見えるようにメンブレンをMilliQで軽く洗う

10. マーカーの位置に鉛筆で印をつけた後、Tween-PBSで浸透し、脱色する (5分 x 3回)

関連サイト・図書

この記事に関連した内容を紹介しているサイトや本はこちらです。

SDS-PAGEの原理とプロトコル 【その他のタンパク泳動方法も】

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • 転写バッファーを作る時には発熱するので少し早めに準備しておく
  • 高分子量の時にはアルカリ性のものを考慮する
  • セミドライ式とタンク式という2種類の装置がある

今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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