バイオセンサーの仕組み 【FRETとBRET】
この記事のタイトルとURLをコピーする

百聞は一見にしかず。

生命科学者たちは、細胞の中で起こるさまざまなシグナルを高い時空間分解能で直接可視化するためにさまざまなバイオセンサーを作ってきました。

この記事では、蛍光タンパクを使ったバイオセンサーの一部を紹介します。

バイオセンサーの基本

バイオセンサーをコードするようなDNAを遺伝学的に埋め込むことでさまざまなバイオセンサーが作られてきました。

これらは原則として、関心のある信号の変化を検出するためのセンシングユニットと、その変化を光 (可視域から赤外域まで)に変換するレポーターユニットから構成されています(Genetically encoded fluorescent biosensors illuminate the spatiotemporal regulation of signaling networks. Chem. Rev. 2018)

レポーターユニットには蛍光タンパクが最も一般的に使用されていますが、自己標識タンパク質(self-labeling protein, SLP)や発光タンパクも利用可能なレポーターです。

特に、比較的近年開発されたNLucを含む発光タンパクは(蛍光タンパク系のように) 外から光を励起する必要がなく、バックグラウンドが低いためシグナルノイズ比を高く保つことができます。

ある刺激を受けるとそれに応答して局在が変化するタンパク (やタンパクドメイン) をセンサーユニットとすれば、そこにレポーターユニットをつけるだけで簡易的なトランスロケーションベースのバイオセンサーを作ることができます。

例えば3-phosphoinosideは、細胞膜とのトランスロケーションを指標としてバイオセンサーが作られました (Phosphatidylinositol(3)-phosphate signaling mediated by specific binding to RING FYVE domains.
Mol. Cell 1998)。

FRETとBRET

より汎用性の高い方法として、センシングユニットを使って2つのレポーター蛍光タンパク質間のFRET (fluorescence resonance energy transfer) 活性を変化させるものがあります。

FRETはドナー蛍光タンパクとアクセプター蛍光タンパクの間のエネルギーの移動に基づく手法ですが、蛍光タンパクではないルシフェラーゼも励起状態エネルギーをアクセプター蛍光タンパクに伝達できるということが発見され、ドナー蛍光タンパクをルシフェラーゼに置き換えたBRET (bioluminescence resonance energy transfer) が開発されてきました (Engineering BRET-sensor proteins.Methods. Enzymol. 2017)。

センサーとレポーターを一体化する

センサーユニットを1つのレポーター蛍光タンパクの中に埋め込むという手法もあります。センサーユニットが蛍光タンパクの構造変化を起こすと発色団の挙動が変化するという原理に基づいています。

もともとはCaセンサーとして開発されました (A high signal-to-noise Ca(2+) probe composed of a single green fluorescent protein. Nat. Biotechnol. 2001)が、同様のアプローチが最近では

代謝物 (Genetically encoded fluorescent sensors for intracellular NADH detection. Cell Metabol. 2011)

膜電位 (High-fidelity optical reporting of neuronal electrical activity with an ultrafast fluorescent voltage sensor. Nat. Neurosci. 2014)

神経伝達物質 (Ultrafast neuronal imaging of dopamine dynamics with designed genetically encoded sensors. Science 2018)

キナーゼ活性 (Single-fluorophore biosensors for sensitive and multiplexed detection of signalling activities. Nat. Cell Biol. 2018)

といった、より広範囲のものをモニターするために使われています。

Caセンサーへの活用例

研究者らは緑から赤へ変わる蛍光タンパクmEos2をベースとしたカルシウムバイオセンサーを設計することにより、アクティブな神経回路を標識するためのレポーター、CaMPARI(Ca2+-modulated photoactivatable ratiometric integrator)を開発しました。

CaMPARIはCaイオンと紫光が両方存在するときのみ、緑から赤へ変わります。これを使って、ハエ・ゼブラフィッシュ・マウスの脳において光刺激をしていた期間に活性になった (Ca濃度が上昇した) ニューロンを調べることができました (Labeling of active neural circuits in vivo with designed calcium integrators. Science 2015)。

蛍光と発光を組み合わせたバイオセンサー

一般的な蛍光タンパクの問題点は、組織の深部に届かないことと、自家蛍光やフォトブリーチングのため有効なシグナルが減ってしまうことです。

一方でルシフェラーゼに代表される生物発光は、外部から励起のために光を当てるのではなく化学的な基質を使用するのでシグナル:ノイズ比が高くなり、深部観察もできるというメリットがありますが、ほとんどのルシフェラーゼは暗く、基質も短い時間しか有効ではありません。

これらの相補的な特性をうまく補えるような、蛍光と発光を組み合わせたバイモーダルなバイオセンサーの開発が進められてきました。

例えば、hyBRET (A platform of BRET-FRET hybrid biosensors for optogenetics, chemical screening, and in vivo imaging. Sci. Rep. 2018)というシステムがあります。

このセンサープラットフォームでは、RLucとシアン蛍光タンパク質(CFP)を融合させたものをハイブリッドドナーとして使い、CFP励起またはルシフェリン添加のどちらかをするとアクセプターである黄色蛍光タンパク質(YFP)にエネルギーを伝達することができます。つまり、状況によりFRETとしてもBRETとしても使えるバイオセンサーというわけです。

同様に、単一の蛍光タンパクベースのCa2+センサーであるGCaMPのN末端およびC末端に、split-NLucを融合させることにより、Green Luminescent Indicator for Ca Observation (GLICO) が開発されました (Genetically Encoded Fluorescence/Bioluminescence Bimodal Indicators for Ca2+ Imaging. ACS Sens. 2019)。

GLICOにおけるCa2+依存性のコンフォメーションは、488 nm 励起下での緑色蛍光タンパク質(GFP)強度の増加(蛍光モード)と、ルシフェリンの存在下でのNLuc-GFP BRETの増加(生物発光モード)のどちらでもモニターすることができます。

関連図書

この記事に関連した内容を紹介している本はこちらです。

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。

この記事のタイトルとURLをコピーする
生命医学の知識や進歩を無料のニュースレターで

がんをはじめとする病気やよくある症状などの医学知識、再生医療などの生命科学研究は、研究手法が大きく前進したこととコンピューターの発達なども相まって、かつてないほどの勢いで知識の整備が進んでいます。

生命医学をハックするでは、主として医師や医学生命科学研究者ではない方や、未来を担う学生さんに向けた情報発信をしています (より専門的な内容はnoteで発信中)。

月に1回のペースで、サイトの更新情報や、それらをまとめた解説記事をニュースレターとして発行しています。メールアドレスの登録は無料で、もちろんいつでも解除することができます。

サイト名の「ハックする」には、分かってきたことを駆使し、それを応用して、病気の治療や研究などにさらに活用していこうという意味があります。

生命医学について徐々に解き明かされてきた人類の英知を受け取ってみませんか?

こちらの記事もいかがですか?
ブログランキング参加中 (クリックしていただけると励みになります)