高校の生物の教科書にはエンドウ豆の実験がよく出てきますが、血液型や性別の方が身近な遺伝と言えるでしょう。
この記事では、血液型と性別を題材に、遺伝子について少し掘り下げて解説します。
ABO式血液型の決まり方
現在の理解につながる遺伝法則を最初に提唱したメンデルはエンドウ豆を使って法則を見つけました。
fa-arrow-circle-right関連記事【高校生物の物語】耳垢遺伝子とメンデルの法則【遺伝の基本】
しかし私たちにとっていちばん身近な遺伝といえば血液型が思い浮かぶでしょう。
実は血液型にはいろいろな分け方があり、その中でも一番知られているA, B, AB, O型に分ける方法はABO式血液型といいます。
実は、血液型は4つあるのに遺伝子は3つしかないのです。つまり、A型にする遺伝子(A)、B型にする遺伝子(B)、O型にする遺伝子(O)です。
両親から遺伝子を引き継いだ時に、どちらが出てくるかによって優性・劣性遺伝子というのでした。これはちょうど、黒い下敷きと透明な下敷きを2枚重ねると、全体としては透明にならず黒くなるということと同じだという話はメンデルの法則の記事で詳しく書いています。
fa-arrow-circle-right関連記事【高校生物の物語】耳垢遺伝子とメンデルの法則【遺伝の基本】
血液型の場合、AはOに対して優性で、BもOに対して優性です。AとBは同じ強さなので、両方あるとその両方の遺伝子が働いてAB型となります。
まとめると、
B型の場合はBBまたはBO
AB型の場合はAB
O型の場合はOO
です。
あとはこの組み合わせを調べればOKです (やり方は別の記事に詳しく解説しました)。
例えば、父親がA型 (AO) で、母親がB型 (BO) の場合の子供の血液型は
母由来のB | 母由来のO | |
父由来のA | AB | AO |
父由来のO | BO | OO |
となり、AB, AO, BO, OOがどれも同じ割合になります。そのため、この子はAB型、A型、B型、O型の全ての可能性があります。
日本血液製剤協会によると、日本人で最も多い血液型はA型 (40%)で、ついでO型 (30%)、B型 (20%)、AB型 (10%)になっています。
ちなみに、血液型の性格診断には科学的な根拠はありません。星占いなどと同じく、あくまで占いとして楽しめばいいと思います。
Rh式血液型
ABO式だけではなく、他にもたくさんの血液型がありますが、中でも重要なのはRh式血液型です。
これはサルの一種であるアカゲザルと同じ物質をもっているかどうか、で分類したもので、同じ物質をもつRh+型と、もたないRh-型があります。
Rh+型のほうが優性になり、日本人ではRh-型は約0.5%しかいません。
Rh-型の方には、Rh-型の血液しか輸血できません。そのため、この血液型を輸血前に調べること、そして必要な時にはRh-型の血液を迅速に手配するということが医療機関では日夜行われています。
性別の決まり方
染色体 (chromosome) は、遺伝情報の運び屋です。
fa-arrow-circle-right関連記事【高校生物の物語】遺伝子、ゲノム、DNAの違い
ヒトがもつ染色体は、全部で46本あります。より正確には、父親から23本、母親から23本です。
同じものが2組ずつあるので、2n = 46 と表記されることもあります。
この46本のうち、44本は常染色体と呼ばれていて男女で共通ですが、2本は性染色体といい男女で組み合わせが変わります。
正確には、性染色体2本のうち、1本はX染色体といって男女で共通ですが、もう1本は女性の場合はX染色体、男性の場合はY染色体と変わります。
まとめると
男性はXY
になっています。
配偶子 (卵や精子) をつくるときには、性染色体2本のうちどちらかを配偶子に渡します。
女性の場合はどちらにせよX染色体ですが、男性の場合にはX染色体のこともY染色体のこともあり、五分五分の確率で決まっています。
母由来のX | 母由来のX | |
父由来のX | XX | XX |
父由来のY | XY | XY |
そしてこのXとYはYの方が優性なので、XYの場合は男の子になり、XXなら女の子になります。
この組み合わせ表の結果は、男の子と女の子が同じ割合で生まれることになるのです。
このように、子の性別は受精した父親の精子がX染色体を持っていたのか、Y染色体を持っていたのかによって決定されます。
男性に起こりやすい病気
X性染色体は、いろいろな遺伝子をもっています。
女性はX染色体が2本あるので、仮に片方がうまく働くことができなくてももう片方のX染色体がカバーできます。
それに対して男性はX染色体が1本しかないので、X染色体にある遺伝子が正常に機能しない場合はいろいろな症状に直結してしまいます。
例えば有名な例として、赤・緑の色覚異常があります。赤色と緑色を識別するための遺伝子はX染色体にあるので、この遺伝子がうまく働かなくなった時、男性の方がずっと色覚異常になりやすくなります。
実際、日本では男性20人に1人が軽度の赤緑色覚異常ですが、女性ではずっとまれ (およそ500人に1人程度) です。
医学の観点からは、例えば血友病という病気があります。血友病は血液が非常に固まりにくくなる病気で、ちょっとしたケガでも大きな出血につながってしまいます。
血友病の患者さんのほとんど (95%以上) は男性で、その原因は血液を固めるのに重要な成分 (凝固因子, 特に第8凝固因子) の遺伝子がX染色体にあるからです。
関連サイト・図書
この記事に関連した内容を紹介しているサイトや本はこちらです。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 血液型はABO式以外にもRh式など多数ある
- 子供の性別は精子の性染色体で決まっている
- X染色体が1本しかない男性は、一部の病気になりやすい
今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。