アメリカのNASAが長期宇宙滞在による健康への影響を解析し、前例のない双生児研究の結果を、Science誌に報告した。原題は「The NASA Twins Study: A multidimensional analysis of a year-long human spaceflight」だ。
研究の背景と計画
500人以上の宇宙飛行士がこれまで宇宙に行ったが、1年近い長期のミッションを行ったのは8人だけだ。
宇宙では、宇宙船内で隔離状態に晒されることによる精神的な疲労や、放射線被曝・微小重力などの過酷な環境ストレスがある。
2020~30年代には火星への飛行も計画されていて、長期間の宇宙飛行が人体に及ぼす影響を包括的に調べる必要があった。
今回のNASA双生児研究の対象は、2015~16年の間に国際宇宙ステーション(ISS)に342日間滞在した元宇宙飛行士Scott Kelly氏と、その間地上にいた一卵性双子のMark Kelly氏だ。
飛行期間の前後を含む25カ月間、トランスクリプトミクス、エピジェネティクス、生理機能などに関するデータを全米の10の専門家チームとともに収集し解析した。
研究結果とその意義
その結果、宇宙飛行で見られる変化として、体重減少、テロメア伸長、ゲノム不安定性、眼の変形、転写および代謝の変化、腸内細菌叢の変化、帰還時の認知機能低下などが認められた。
テロメア長と全体的な遺伝子発現・腸内細菌叢の変化は、地球帰還半年で宇宙飛行前のレベルに戻ったが、幾つかの遺伝子発現レベルの変化や染色体逆位によるDNA損傷、認知機能の衰えはその後も継続していた。
この研究は、長期の宇宙滞在による生体の変化を提供するものだ。
NASA双生児研究から、宇宙飛行環境でのさまざまな変化に対し、人体は適応し回復する能力を概ね備えていることが分かった。今回の結果は、長期宇宙滞在ミッションの健康リスクの解明や個別の予防対策の開発を目的とした将来の学際的研究のロードマップとして役立つだろう。
テロメア長には注意
宇宙飛行中に伸長していたテロメア長は、地球帰還時の着地に関連するストレスと同期して急激に短縮が加速したとScience誌の論文で筆者らは述べている。
多くのISS宇宙飛行士は飛行後にテロメアが短縮する傾向にある。テロメア長の変化は老化の指標やがんなど加齢関連疾患とも深く結びついているので、これは将来的な宇宙飛行士の健康や長期リスクの評価に重要な要素になる。