失明原因の第一位にあげられる糖尿病性網膜症を人工知能技術である深層学習を使って正確に診断するという論文が2019年5月のTHE LANCET Digital Health誌に掲載された。
原題は「Artificial intelligence using deep learning to screen for referable and vision-threatening diabetic retinopathy in Africa: a clinical validation study」だ。
2012年のImageNetにおける畳み込みニューラルネットワーク (CNN) の劇的な登場以来、多くのCNNモデルが提案されパフォーマンスが向上してきた。特に画像判定においてはCNNのほぼ独断場であり、数多くの応用がなされている。
網膜の画像である眼底写真においても、いくつものグループによって人工知能の優秀性が報告されている。しかしそれらはアメリカなどの先進欧米諸国や、先進国の仲間入りを果たしつつある中国やインドの患者データに限られていた。
ザンビアは発展途上国であり人口の4分の1が眼疾患と視覚障害を持っている。医療施設も限られていて、何百万人ものザンビア人は専門医を受診することができない。したがって、医師による診断の代替手段としてのAIの利用は糖尿病のアフリカの人々にとって非常に有用である。
網膜眼底画像を分類するために、2つの畳み込みニューラルネットワーク(VGGNetとResNet)の組み合わせからなるアンサンブルAIモデルが採用されている。
訓練データとして2010年から2013年までの間に得たシンガポールの糖尿病患者13,099人から76 370枚の網膜眼底画像について訓練した。テストデータとして、2012年にザンビアの糖尿病患者1574人のデータを集めたとのこと。その結果、AIは正解率97%に到達し、これは眼科専門医と同等の精度であったという。
アフリカは医療資源が先進国よりも大きく限られており、予防可能な失明の発生率を減らすためにもAIの力を借りてより高リスクの方を層別化できるというのは有用である。先進国の1つであるシンガポールで人口知能の訓練を行っても、人種を超えてアフリカのザンビアの糖尿病患者の眼にも適応できるというのも興味深い。
網膜画像をAIに読み込ませるのは1つのトピックスであり、日本では自治医科大学眼科のグループなどが独自に開発したAIを発表している (自治医科大学webサイト)。手法が改良され医療現場に実用化される日もそう遠くないかもしれない。