リポフェクション法の原理の概略と試薬・プロトコールの例【トランスフェクションの基本】

細胞に遺伝子導入をする方法はさまざまなアプローチがあり、哺乳類細胞へのトランスフェクション法5種類 【原理の概要】という記事にまとめました。

この記事では、そのうち最もよく使われているリポフェクション法について、その原理の概略とプロトコルの例について紹介します。

リポフェクションの原理の概略と使われる脂質

カチオン性の脂質は、負に荷電するDNA分子と混合すると人工膜小胞(リポソーム)を作ります。
この安定なカチオン性複合体を細胞にかけることで、負に帯電した細胞膜に付着し融合する結果、目的のプラスミドDNAを簡便に細胞内に導入できるというのがリポフェクション法の原理です。

初期の頃に使われていたリン酸カルシウム法よりも簡単かつ効率よく入るので、現在のトランスフェクションの多くはリポフェクションをベースにしたものになっています。

カチオン性脂質にはいろいろあり、それぞれを使ったさまざまなキットが市販されています。
脂質の名前は長いので、略称で書くとこのようになります。

monocationic

DOTMA (商品名はLipofectin)、DOTAP (商品名はDOTAP)、DMRIE (商品名はDMRIE-C)、DDAB (商品名はLipofectACE)、Amidine (商品名はCLONfectin)、DC-Cholesterol (商品名もDC-Cholesterol)

polycationic

DOGS (商品名はTransfectam)、DOSPA (商品名はLipofecAMINE)、TM-TPS (商品名はCellFectin)

脂質によってはプラスチックに吸着しやすいものもある

これらの脂質のうちで、プラスチックに吸着しやすいものもあるので要注意です。

例えばDOTMAはその代表的なものであり、ポリプロピレン(標準的なエッペンチューブも含む)に吸着しやすいため、ポリスチレンチューブを使う必要があります。

ポリプロピレンやポリスチレンというのはプラスチックの1種類です。生命科学実験をやっている方ならご存知でしょうが、まだ日が浅い学生さんはプラスチックのオートクレーブ可能・不可能の見分け方 【生命科学実験の初歩】で確認しておくといいでしょう。

キットの説明文書には注意事項として書かれていますのでしっかりと確認しておく必要があります。

その他に用意するもの

プラスミドDNA以外に必要なのは細胞と、よりよい条件を見つけておくことです。

細胞とその増殖培地

プレートの大きさによって、必要な細胞数や培地の量は変わります。
一例として培地の量はこのようになっています。

プレートサイズ 面積 (cm**2) 培地量
96 well 0.32 100 ul
24 well 1.86 500 ul
12 well 3.83 1 ml
6 well 9.4 2 ml
6 cm 21 5 ml
10 cm 55 10 ml

必要な細胞数は、もともとの増殖速度などによっても違うので予備検討が必要です。

予備検討の概略

どのリポフェクション試薬がいいのかや、混合比なども含めて、一度は条件検討をします。

緑色蛍光タンパク質 (GFP)や、大腸菌のß-ガラクトシダーゼなどのマーカーを発現するプラスミドを入手し (自作してもOKですし、購入することもできます)、さまざまな条件のもとでトランスフェクションし、シグナル/ノイズ比が基も最も高い条件を見つけていきましょう。

リポフェクション手順の例

リポフェクションには多くのバリエーションがあるので、ここで紹介するのはその一例であることをあらかじめご了承ください。

1. リポフェクションの24時間前にトリプシンで対数増殖期にある細胞を剥がし、6 cm dish に1 x 10^5 /wellでplating。5 mlの mediumを加え、37℃のインキュベーターで24時間培養。

適切な細胞数は、使用するdishのサイズや使いたい細胞によって変わるので要検討です。
細胞の培養時間が短い (例えば12時間未満など) と、トランスフェクションの操作でdishから剥がれてしまうことがあります。

2. プラスミドDNA 1-10 ug (6 cm dishの場合) を100 ulのMilliQ(lipofectinを使用する場合)または20mMクエン酸ナトリウム(150mM NaCl,pH5.5)(transfectamを使用している場合)に希釈し、ポリスチレンまたはポリプロピレン製の試験管に入れる。

別のチューブで、2~50 ul の脂質溶液をMilli!または 300 mM NaCl で最終 100 ul になるよう希釈。

3. 室温で 10 分間インキュベートする。

4. プラスミドDNA と脂質溶液をまぜ、室温で 10 分間インキュベートする。

5. その間に、トランスフェクションする細胞を無血清培地 (OptiMEMなど) で 3 回洗浄する。3回目の洗浄後、6 cm dishに0.5mlの無血清培地を加え、洗浄した細胞を5-7%CO2雰囲気の37℃加湿インキュベーターに戻す。

脂質-DNAリポソームを添加する前に、血清を含まない細胞を使って洗浄することは非常に重要。
血清はトランスフェクションの効果的な阻害剤になりうるから(Fergner and Holm 1989)。
また、細胞外マトリックス成分もリポフェクションを阻害することが知られている。

6. DNA-脂質溶液を10分間インキュベートした後、各チューブに無血清培地900 ulを加える。この溶液を上下に数回ピペッティングして混合し、室温で 10 分間インキュベートする。

7. DNA-脂質-無血清培地を6 cmディッシュの細胞に加えtransfection。37℃、1-24 時間インキュベートする。

8. 細胞を適切な時間 DNA にさらした後、細胞を無血清培地で3回洗浄する。その後、通常の培地に戻して細胞をインキュベート。

リポフェクション試薬には細胞に毒性があるものもあり、洗浄しないと細胞が死んでいく。しかしキットによってはこのステップが不要なものもある。

9. リポフェクション後48-72時間ほどがたったら、概ねトランスフェクションはできている。目的の実験を始める。

まとめに代えて

この記事では、リポフェクション法の例をご紹介しました。

さまざまなキットがありますが、目的の細胞や条件によって導入効率は差があるので事前の条件検討は必要です。

「目的別で選べる遺伝子導入プロトコール〜発現解析とRNAi実験がこの1冊で自由自在! 」に、他の方法も含めて解説されています。

当サイトでも哺乳類細胞へのトランスフェクション法5種類 【原理の概要】という記事にまとめています。

また、よりしっかりとした実験書ということであれば「Molecular Cloning」がいいでしょう。
値段はやや張りますが、さまざまな分子生物学実験の基本的な事項について、注意点も含めて網羅されています。

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