CRISPRによる部位特異的なRNA塩基編集 【A-to-IとC-to-U】
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【生命医学をハックする】運営者 (@biomedicalhacks)。生命科学研究者、医師・医学博士。プロフィールはこちら

RNA塩基編集にはDNA塩基編集にはない利点があり、それは細胞の遺伝情報に可逆的な変更を加えたり、RNAにエピトランスクリプトーム的な変更を加えることができるという点です。

この記事では、部位特異的なRNA塩基編集を誘導する方法と文献を紹介します。

A-to-I RNA編集

AからI (イノシン) へのRNA塩基編集は古くから研究されていて、Xenopus卵の核抽出物由来のアデノシンデアミナーゼ(ADAR)酵素を用いて、mRNAのpremature 停止コドンを直す研究などが有名です。

この自然界にある現象を応用しようとして、標的mRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)とADARをなんとかしてつなげる研究が進み、細胞内で機能する正確なA-to-IRNA編集ができるようになりました (Toward the therapeutic editing of mutated RNA sequences. PNAS 1995)。

ASOの設計については、標的mRNAと完全にマッチさせるよりも、A-Cミスマッチを入れた方がADARの活性が高まることが分かっています (An efficient system for selectively altering genetic information within mRNAs. Nucleic Acids Res. 2016)。

核酸であるASOとタンパク質であるADARを近づける方法についてはいろいろ考案されていますが、よく使われるのはλ-ファージ Nタンパク質-BoxBシステム (λN-BoxB) です。簡単に説明すると、ADAR2の触媒ドメインにλNコートタンパク質 (の複数コピー) を融合させておき、一方でASOガイドRNAも2次構造を計算して「BoxB」と呼ばれるヘアピンをいくか持つように設計します。このλNとBoxBが結合するという自然のシステムを使って、目的のADARとASOを近づけることができます。

RESTORE法

外因性のADARを導入するとどうしても過剰発現になってしまい、意図しないオフターゲット編集が起きてしまうという懸念もあります。

そのため、内在性のADARを活用する方法も作られました。その1つはRESTORE(Recruiting Endogenous ADAR to Specific Transcripts for Oligonucleotide-mediated RNA Editing)と呼ばれる方法で、化学修飾をした (最適化した) ASOを使うことで細胞内のRNA編集をすることができるという方法です (Precise RNA editing by recruiting endogenous ADARs with antisense oligonucleotides. Nat. Biotechnol. 2019)。

概要としては、内在性のADAR1には触媒ドメインと2つの2本鎖RNA結合ドメインがあり、修飾されたASOはこの2本鎖RNA結合ドメインにうまくフィットするようになっています。

REPAIR法

Cas13酵素(RNAを標的とする代表的なCas) の発見以降、これを使ったCRISPRベースのRNA塩基編集が考案されてきました。

一番最初に作られたのはREPAIR(RNA Editing for Programmable A-to-I Replacement) であり、Prevotella sp. P5-125 由来のCas13 をADAR2の触媒ドメインにつないでいました 。

この第1世代のコンストラクト(REPAIRv1)のA-to-I編集の特異性は低かったので、さらに改良が行われました。第2世代にあたるREPAIRv2は、ADAR2触媒ドメインに点変異R455Eを追加で入れることで、オフターゲット編集が900分の1に減少し、オンターゲット効率が4割ほど向上したと報告されています (RNA editing with CRISPR–Cas13. Science 2017)。

このREPAIRv2はRNA塩基編集を使った治療法の候補として、有望な選択肢の1つと言えます。

C-to-U 塩基編集

A-to-I RNA塩基編集にはここで紹介した方法以外にもいくつかありますが、これは自然界にあるADAR酵素が利用できるからです。

一方でRNAのシトシン脱アミノ化酵素は、自然にはあるものの、一本鎖RNAにあるどのシトシンに対しても高い活性を示してしまうため、正確なRNA塩基編集には使えないという課題があり、A-to-I編集に比べて開発が遅れました。

先に開発されたA-to-I塩基編集を応用して作られたC-to-U編集が RESCUE (RNA editing for specific C-to-U exchange) です (A cytosine deaminase for programmable single-base RNA editing. Science 2019)。

A-to-I 編集のREPAIRシステムに使われているADAR 2の触媒ドメインについて、direct evolutionによってシトシンデアミナーゼ酵素に変換したのです。

RESCUE法は, RNA塩基編集の分野における重要な進展であり、これを皮切りに新しい方法も登場してくるでしょう。

まとめに代えて

この記事ではRNA塩基編集を狙った場所で起こす具体的な方法を紹介しました。

それぞれの方法は原著論文にしっかり書かれているのでここでは省略しましたが、論文ではなくプロトコルがほしいという方はRNA編集に特化した専用のプロトコル集も出版されています。

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