地球上の全ての生物のDNAは、わずか4種類の化学物質、つまりグアニン (G)、シトシン (C)、アデニン (A)、チミン (T)という塩基の配列の形で遺伝情報を保存している。Science誌に人工塩基4種を加えて、DNAの遺伝暗号を8文字にする試みが成功したという論文が報告された。原題は「Hachimoji DNA and RNA: A genetic system with eight building blocks」だ。
アメリカののSteven Bennerが率いる研究チームは、DNAの文字数を8種類に増やしても生命を維持できることを示唆した。この研究成果は、地球上で進化してきた4種類(GCAT)の塩基が特別なわけではないことを意味し、そのこと自体が概念上の躍進である。
DNA鎖2本が二重らせん構造を作る時には、それぞれのDNA鎖にある塩基のCはGと、AはTと対になって結合している。以前からこれらに新しい塩基対を加える試みがなされてきた。今回の論文の責任著者であるBennerも、1980年代に「非天然型」の塩基を作り出している。しかし今回の研究は、非天然型の相補的な塩基が互いを認識して結合することや、それらの塩基が作る二重らせんが、その構造や情報を保持することを初めて体系的に実証した。
それぞれの塩基は水素原子を含んでおり、それが結合相手の塩基の窒素原子もしくは酸素原子に引き寄せられる。研究チームは、これらの凹凸を調整することで新しい塩基対をいくつか作り出した。それらはSとBや、PとZの対などで、いずれも4種類の天然型塩基に似ている。
今回の論文で筆者らは、これらの人工塩基4種類(SとB、PとZ)と天然型塩基4種類をどのようにして組み合わせたかを記述している。研究チームは人工DNA分子を数百個作り出し、それらを作る塩基が予想通りの塩基と結合していることを見いだし、遺伝情報を確実に保存するという重要な知見を見出している。次に人工塩基を含むDNA二重らせん構造が、人工塩基が何番目にあっても安定したままであることを示し、DNAは塩基配列が変わっても二重らせん構造を崩さずにいることができることを示した。
最後に、研究チームは作った人工DNAが、遺伝情報をタンパク質に翻訳する上で重要な段階の1つである転写を正確に行えることを示した。情報を保存する能力だけではなく、それを何らかの働きを持つ分子に受け渡せることが重要である。
今回DNAの塩基を8種類まで増やしたことで、塩基の種類は天然型DNA (4種類) の2倍になった。
Bennerのチームはさらに新しい塩基の対を開発しており、10文字DNA、さらには12文字DNAでさえも生み出せる可能性が見えてきたとのことだ。
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