肺がんにおける分子標的薬・免疫療法の概略【注意点も】
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【生命医学をハックする】運営者 (@biomedicalhacks)。生命科学研究者、医師・医学博士。プロフィールはこちら

肺がんは、がんの中でも患者さんが多いです。一昔前は手術と抗がん剤・放射線治療が行われて来ましたが、2000年代以降になり分子標的薬や免疫療法など、新しいアプローチも可能になりました。

この記事では、これらの新しい方法について、どのようなものなのかという概略と、それぞれの注意点を説明します。

肺がんの大きな分類

肺がんは、大きく小細胞肺がん (肺がんのうちの10%)と非小細胞肺がん (肺がんのうちの90%) の2つに分けられます。

このうち、小細胞肺がんは進行度によって限局型と進展型にさらに分けられます.

小細胞肺がんは進行が非常に早く、見つかった時には肺から離れた臓器に転移している場合が多いので、手術が可能なのは極めて早期に見つかった場合に限られ、薬による治療が中心となります.

一方の非小細胞肺がんは、その顕微鏡での見え方によって扁平上皮がん腺がん大細胞がんなどにさらに分かれています

これはいずれも、病期 (ステージ)によって手術や抗がん剤・放射線治療の他、近年の新しい治療法として分子標的薬や免疫療法が組み合わされます。

肺がんの分子標的薬の概略

非小細胞肺がんの患者さんの約半数には4つの遺伝子変異のいずれかがあり、その遺伝子を狙いうちにした薬である分子標的薬を使うことができます。

肺がんに使われている分子標的薬は、
EGFR遺伝子に変異がある場合はEGFR阻害薬 (イレッサ、タルセバ、ジオトリフ、ビジンプロ、タグリッソなど)
ALK遺伝子変異に変異がある場合はALK阻害薬 (ザーコリ、アレセンサ、ジカディア、ローブレナなど)
ROS1遺伝子変異に変異がある場合はROS1阻害薬 (ロズリートレクなど)
BRAF遺伝子変異に変異がある場合はBRAF阻害薬(タフィンラーなど)

の4つのタイプがあります。

分子標的薬はがん細胞だけが持つ特定の遺伝型を狙って攻撃するため、正常な細胞に与えるダメージがこれまでの抗がん剤よりも少なくなる薬です。

肺がんに使われている分子標的薬はいずれも飲み薬で1日1-2回服用します。

残念ながら全ての人に効果があるわけではありませんが、最初の治療に分子標的薬を使った後に7割程度の患者さんでがんが小さくなります

これら以外にも、別の遺伝子変異に対する薬についても研究開発が進められていて、分子標的薬は今後も増えていくと考えられます。

どんな薬にも副作用がありますが、分子標的薬も例外ではありません。

分子標的薬の場合は、どの遺伝子を阻害する薬かによって特徴的な副作用があります。 例えば EGFR遺伝子に対する分子標的薬の場合は湿疹や下痢、間質性肺炎が起こることがあります

特に、間質性肺炎は重篤になる可能性があります。せきや息切れなどがあれば早い段階で検査が必要です。

肺がんの免疫療法の概略

免疫細胞にはがんを抑える働きがあります。しかし免疫が活発になりすぎることも体にとってはよくないので、免疫の働きを抑える細胞もいます。その代表例がPD-1という分子を細胞表面に持つリンパ球です。

このPD-1分子を抑えることで、免疫系を活性化しがんを攻撃するというがん免疫療法は、2018年に本庶佑先生がノーベル賞をとったことでも有名になりました。

この免疫チェックポイント阻害薬は、2-3週に1回点滴で投与します。

分子標的薬に比べると、免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮できるケースは多くはなく、およそ2割程度にとどまります。

しかし免疫チェックポイント阻害薬の効果がある人の場合は、その効果が長続きしやすいという大きな特徴もあります。

現在では、免疫チェックポイント阻害薬だけではなく抗がん剤を組み合わせた治療が行われるようになってきています。

もちろん免疫チェックポイント薬にも副作用があります

頻度が高いのは、湿疹やかゆみなどの皮膚症状、甲状腺機能障害などのホルモンの異常です。他に、頻度は高くないものの重症になる可能性がある副作用として間質性肺炎、大腸炎などが知られています。

免疫を抑えている細胞を抑える薬なので、免疫系は必要以上に活性化して、炎症反応を起こしてしまう可能性があります。

免疫療法は現在とても注目されていて、今後更なる進歩が期待されています。がんがあってもより共存できる時代に今後はなっていくでしょう。

そしてもう1点、最後に付け加えておきたいのは、「免疫療法」を謳い文句にする食品や治療がありますが、そのほとんどは科学的な妥当性はないということです。

本当の意味で免疫療法としてしっかりとした生命医学分野での証拠があるのは、ごく最近登場した免疫チェックポイント阻害薬や、CAR-Tなど、ごく一部に限られます。

当サイトでは、エセ免疫療法ではない本物の免疫療法を、NatureやScienceといった一流科学論文の証拠に基づいて今後も紹介していきます。

関連サイト・図書

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • 抗体療法は7割前後の方に効果がある
  • 免疫療法は2割程度の方にしか効かないが、効く場合は効果がより持続しやすい
  • 「免疫療法」を謳い文句にしたエセ情報に注意

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。

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