白血病のオーダーメードCAR-T細胞療法が承認、実現には課題も
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血液がんの新たな免疫治療「CAR-T細胞療法」で使う製剤キムリアが保険承認され、2019年5月22日から国内でも使用されるようになる。

実用化される新たな免疫療法CAR-T療法

CAR-T細胞療法は、患者さん自身の免疫細胞を使ってがんと闘う高度に個別化された治療法である。

免疫を司る細胞のうち、T細胞を取り出して、遺伝子工学の技術でCAR(Chimeric antigen receptor, キメラ抗原受容体)と呼ばれるたんぱく質を作り出せるようT細胞を改変する。

CARはがん細胞の表面に発現する特定の抗原を認識し攻撃するように設計されていて、この遺伝子改変T細胞をCAR-T細胞という。

このCAR-T細胞を患者さんに投与することにより、がんを免疫の力で攻撃するのがCAR-T療法だ。

厚生労働省は今春、従来の治療がきかなくなった白血病患者らへの新たな治療法としてCAR-T療法製剤キムリアの製造販売を承認した。

キムリアは、製薬会社ノバルティスファーマ(本社スイス)の製品である。

今回対象となるのは、再発などで治療が難しい、特定の血液細胞ががん化した白血病とリンパ腫の一部で年250人ほどになると推定されている。

CAR-T細胞の作り方

その治療方法はこのように患者個人の細胞を取り出し培養し増やして遺伝子操作を行う個別化医療である。

  1. 患者さんの細胞の採取
    患者さんからT細胞を採取します。採取された患者さんのT細胞は、CAR-T細胞の製造施設に送られます。
  2. T細胞の改変
    製造施設では、特定の抗原を発現するがん細胞を認識し攻撃するよう、患者さんのT細胞を改変します。
  3. 細胞の増殖
    改変されたT細胞(CAR-T細胞)は、特定のがんと闘うのに十分な数まで増やされます。
  4. 品質検査
    CAR-T細胞は、厳しい品質検査を経て、最終製品として患者さんの治療施設に送られます。
  5. リンパ球除去化学療法
    患者さんの白血球レベルを下げることで、体がCAR-T細胞を受け入れやすくするために、リンパ球除去化学療法を行います。
  6. CAR-T細胞の投与
    CAR-T細胞を患者さんの血液に戻します。CAR-T細胞の投与は1回のみの治療で行われます。
  7. がん細胞を攻撃
    CAR-T細胞は、患者さんの体内で特定の抗原を発現するがん細胞に付着して、攻撃をしかけます。

(ノバルティスファーマのホームページから抜粋)

キムリアの効果や展望

臨床試験(治験)では、従来の治療だと約2割だった白血病患者の1年生存率が8割近くに大きく改善した。

キムリアは特定の細胞に原因がある全ての血液がんに効果があると考えられていて、適用拡大により対象者が1万人を超す可能性もある。

また、T細胞に加える遺伝子を変えれば他のがん治療にも使えると考えられ、ノーベル医学生理学賞を2018年に受賞された本庶佑先生のオプジーボなど免疫チェックポイント阻害剤に次ぐ新たな免疫治療になると期待される

アメリカや中国などで500近い治験が現在行われている。国内でも大塚製薬やタカラバイオなどが研究している。

キムリアの問題点

高い効果が期待されるが、重い副作用もある。治験では3人に2人の患者が、免疫細胞ががんを攻撃する際に出るたんぱく質「サイトカイン」が大量に出て呼吸不全や低酸素症などになった。

また、高度にオーダーメイドであるゆえに薬価が非常に高い。厚生労働省は公定価格を3349万3407円にすることを承認した。

自由診療 (希望者が自腹で支払い)のアメリカと違い、日本では保険が適用されるので、年齢や所得に応じて上限額を設ける「高額療養費制度」の対象となり、治療を受ける患者さんはおよそ10万弱の支払いで済むが、差額は国民の税金から支払うことになる。

適応拡大されて治療対象が年間1万人になったら、1万人 x 差額の3300万で3兆3000億もかかることになり、これは国の税収の約6%がキムリアの薬代に使われることを意味する。

一定数の患者さんには効果がないことも治験の結果から分かっていてより効果のある患者さんを見分ける方法の開発や、より安価に作る方法の開発が急務である。

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