研究室の中で化学合成されたDNAを使って、ゲノムを「再設計」された世界で初めての生物が誕生した。論文の原題は「Total synthesis of Escherichia coli with a recoded genome」で、Nature誌に発表された。
人工大腸菌Syn61が作られる
土の中や人体に生息する大腸菌は最もよく研究が進んでいる生物の1つである。
今回、完全に人工的に大腸菌を設計することに成功し、人工生物「Syn61」を作り出した。
その遺伝情報は400万塩基対で、もしこれをA4用紙に印刷したとしたら970ページの情報量になる。
そもそも大腸菌は生物学実験において古くはオペロンなど遺伝情報の本質を解き明かすのに貢献してきた。
現在では目的の遺伝子配列 (プラスミド) を増やす時など、分子生物学実験のツールとして非常によく使用されている。研究者の卵である大学院生が初めて行う実験は大腸菌からとなることが多い。
遺伝暗号のからくり
生物が体内でタンパク質の材料になるアミノ酸を作り出すためには、コドンという遺伝暗号で20種類あるアミノ酸の種類を指定する必要がある。
A, T, G, Cという4種類のDNAが3つ集まってコドンを作り1つのアミノ酸に対応しているので、組み合わせは 4 x 4 x 4 = 64種類のコドンがある。
アミノ酸種類は全部で20種類あるので、1つのアミノ酸に対応する複数のコドンがある。
この研究の概要とその意義
研究者は大腸菌から余分なコドンを取り除くことで、大腸菌を再設計した。
たとえばコドンUCGはアミノ酸セリンを指定するが、同じセリンを意味するAGCに書きかえる作業を研究者は行なった。
1万8000箇所を書き換え、大腸菌のゲノムから3つのコドンを取り除き、再設計された遺伝配列を有機化学的に合成し、それを大腸菌が元から持っているゲノムと置き換えた。
これまでで最大規模の合成ゲノムを作り出すことに成功し、ゲノムに対して行われた配列変更も過去最大である。
大腸菌は糖尿病治療の注射製剤であるインスリンの生成にも役立てられたり、がん治療・心臓病といった疾患の治療にも利用されたりしていることから、病気の治療への新しいアプローチにも使われるようになるかもしれない。