高校生物 ~ 医学部1年レベル
高校生物の復習からはじめて現代生命医学を紐解く入門講座、今回は核とリボソームの構造について見ていく。
この典型的な動物細胞の模式図のうち、1が核小体、2が核、3がリボソームである。
この記事の内容
核 nucleusは遺伝情報の中枢である
核 nucleus は、細胞の遺伝情報の保存と司令を行う器官であり、ほとんど全ての細胞にある。
核は真核細胞の中で最も目につきやすいので、顕微鏡が開発された後、もっとも早く見つかった細胞小器官である。平均的な直径は約5 um程度だ。
中学の理科実験でやる、酢酸カーミンまたは酢酸オルセインで赤く染まる構造が核だ。
核の中を見ると、二重の膜からなる核膜 nuclear envelope が、核の内外を分けている。
二つの核膜はそれぞれタンパク質を結合した脂質二重膜で20~40 nmの間隔がある。
核膜には直径約10 nmの複数の穴 (核膜孔) が空いている。核膜孔の縁には、核膜孔複合体と呼ばれるものがある。そこでは、タンパク質や RNAなどの核内外への出入りを制御しているのだ。
核膜の内側は、核ラミナによって裏打ちされている。核ラミナはタンパク質の繊維からなる網目状構造で、核膜を物理的に支えて核の形を維持する働きがある。
核の内部は遺伝情報がクロマチンの状態で存在する
核の内部では、 DNA は1つ1つが区別できる染色体chromosome の集まりから構成される。その本数は生物種によって違い、人では22本の常染色体 autosome(基本的に大きい順に番号がついているが、22ではなく21番染色体が一番小さい) と、1本の性染色体 sex chromosome(XまたはY) の23本が「1セット」で、これが2セットそろって46本ある (2n = 46と表記する)。ただし、卵や精子といった性細胞は例外で23本のみだ。
それぞれの染色体は、DNAに多くのタンパクが結合していて、核染色体のDNAはコイル状になってうまく核内に収められている。そのDNA とタンパク質の複合体のことをクロマチン chromatin という。
分裂していない細胞では、染色したクロマチンは顕微鏡写真では輪郭が不明瞭で個々の染色体を区別できない。
しかし細胞が分裂の準備を始めると染色体は凝縮し、明確な輪郭を持つ目視可能な太い構造になる。
核は細胞機能に必須のタンパク質合成を指令する
核は 、DNA からの指令通りに伝令 RNA (messenger RNA, mRNA) を合成する (転写 transcriptionという) 。遺伝情報であるDNAは究極の極秘情報であり、また量も膨大だ。
そこで実際には、必要なところをコピーしてタンパク質合成工場リボソームに設計図を伝えるのだ。いわばその「コピー」にあたるのがmRNAというわけだ。
そのmRNA はそれから核膜孔を通って細胞質へ輸送される。
mRNA が細胞質に出ると、リボソームはmRNA の遺伝メッセージを使って、タンパク合成を行う。もう少しいうと、対応した特定のポリペプチドへと翻訳するのだ。
そのような遺伝情報の転写と翻訳の仕組みについては別の記事で述べる。
核小体はリボソームの構成要素であるrRNAを合成する
分裂していない核の中でよく見える構造は核小体である。核には、2個あるいはそれ以上の各小体があることがある。核小体の数は、生物種と、細胞が増殖サイクルのどの時期になるかなどで変わりうるのだ。
核小体の仕事は、リボソーム RNA (ribosome RNA, rRNA) と呼ばれるタイプの RNA を、核からの司令によって合成することである。
rRNAは合成された後、細胞質から核内に運ばれてきた複数のタンパク質と核内で複合体を形成して、リボソーム大サブユニットと小サブユニットに組み立てられる。
これらのサブユニットは核膜孔を通って核から細胞質に出ていき、そこでリボソームの大小サブユニットは会合をしてリボソームとなる。
このリボソームは我々真核生物と、細菌などの原核生物ではその構成要素が少し違う。この差を利用した、細菌のリボソームを標的とする抗生物質も開発されている。
次にそのリボソームについて見ていこう。
タンパク質合成工場リボソーム ribosome
リボソームは、核小体で作られるリボソーム RNA とタンパク質からなる複合体で、タンパク質合成を行う工場である。
リボソームは、mRNAの情報からタンパク質を合成するという、簡単ではない作業を正確に行わないといけないので、大きく複雑な構造をとっている。およそ50種類以上のタンパク質と、少なくとも3種類のrRNA分子から構成される。
タンパク質をたくさん作る細胞、つまり合成速度の大きい細胞では、リボソームが特に多い。
例えば人の膵臓はさまざまな消化酵素を作るので、数百万個のリボソームがある。
タンパク質合成が盛んな細胞はリボソームが多いだけでなく、よく目立つ核小体を持っているが、これは核小体で作るrRNAがリボソームを作るのに不可欠なので当然のことだ。
リボソームは、その細胞質での位置の観点からは大きく2通りに分けられる。
「遊離リボソーム」は細胞質中に浮遊しているのに対し、「膜に結合したリボソーム」は小胞体あるいは核膜の外側に結合している。
遊離リボソームで合成されたタンパク質のほとんどは細胞質で機能する。
例えば、糖の分解の最初は細胞質で行われるが (解糖系), その解糖系の酵素が作られるのは遊離リボソームである。
膜結合リボソームは、膜に挿入されるタンパク質や、リソソームのようなある決まった細胞小器官に取り込まれるタンパク質、そして細胞外に輸送されるタンパク質を作る。
この両者は実は同じもので、時間の経過とともに入れ替わっている。
リボソームの機能については別の記事で取り上げる
動画で理解するDNAからタンパクができるまで
これで遺伝情報であるDNAを格納する核から、実際のタンパク質を作る工場であるリボソームまで、一通りの役者がそろった。
この記事のまとめとして、タンパクができるまでのアニメーション動画を載せておく。