医師執筆記事 (厚労省医籍登録番号499533)
ストレスで胃潰瘍 (いかいよう)になる、ということを聞いたことがある方は少なくないでしょう。しかし胃潰瘍について知っている方はあまり多くありません。
この記事では、胃潰瘍や十二指腸潰瘍について知っておきたいことをまとめました。
原因や症状から、検査・治療、治療後に気をつけること、そして医療費の目安までこの記事内で完結します。
胃潰瘍とは
胃液にはたくさんの胃酸が含まれているので、この胃酸にさらされることになる胃の粘膜には、通常は防御機構があります。この胃の粘膜を守る機能が低下すると, 胃酸にさらされた粘膜に炎症や出血、ひどい場合には胃の壁に穴が開く (穿孔する) ということになります。
これが胃潰瘍です。胃を出たところ、小腸の入り口には、ちょうど12本の指の幅と同じくらいの長さだというところから命名された十二指腸というものが続いていますが、この十二指腸の粘膜が同じように障害を受けたのが十二指腸潰瘍です。
胃潰瘍の症状
胃潰瘍の症状には、胃のむかつきや痛みなどがあります。
潰瘍ができた場所によっては、吐血や、黒い便が出る (下血) などが起こります。
特に、タールというタバコにもたくさん含まれる黒い成分と同じように、黒色の便 (タール便)は、胃や十二指腸からの出血を示唆するものです。黒い便は緊急サインですのですぐに病院に行きましょう。
出血が長引いたときには、貧血による立ちくらみや、動悸息切れなどの症状として見られることもあります。
胃潰瘍が疑われる場合内科や消化器内科を受診しましょう。
胃潰瘍の原因
胃潰瘍の原因の多くはヘリコバクターピロリという細菌の感染です。
一昔前と比べ、現在は水道などが整備され衛生環境が良くなったことで、若い世代のピロリ菌感染者数は減少しています。
例えば70歳以上の方は7割以上ピロリ菌に感染しているのに対し、20歳代の世代では菌感染率は20%以下になります。
今後もピロリ菌感染率はどの年代でもさらに低下していくと考えられます。たかせ胃腸内科クリニックのサイトから図を引用します。
ピロリ菌以外の胃潰瘍の原因として気をつけなければならないのは、関節炎や関節リウマチなどで処方される鎮痛解熱薬です。
特にNSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬) というタイプの薬は、プロスタグランジンの産生を抑えることで、痛みを和らげるなどの効果がありますが、同時にプロスタグランジンには胃の粘膜を保護するという作用もあるので、胃酸によって粘膜が損傷を受けやすくなります。
脳梗塞や心筋梗塞などの再発予防のために使われることが多い低用量アスピリンも、NSAIDsの仲間です。
NSAIDsは痛み止めでもあるので、胃潰瘍が起こっても胃の痛みが現れにくい場合もあります。胸焼けや下血などがあれば、注意が必要です。
薬局で変える市販の市販の鎮痛薬や、解熱剤にはNSAIDsが使われているものもあるので、服用する際には用量用法を守ることや複数の鎮痛薬を一緒に服用しないということが大事です。
例えば、市販の薬局でも買えるロキソニンも飲みすぎると胃潰瘍を引き起こします。
このほかの胃潰瘍の原因として疲労や肉体的精神的ストレス、飲酒・喫煙などがあります。
これらが複合的に組み合わさり、胃粘膜防御機構が破綻した時に胃潰瘍が発症します。
胃潰瘍の検査と治療
胃潰瘍の診断はバリウム検査または胃カメラになります。
健診や人間ドックなどでバリウム検査を行い、潰瘍が疑われる場合は精密検査として胃カメラ検査が必要です。
胃がんなどの怖い病気がないのかも合わせて調べることができます。
胃潰瘍からの出血がない場合は薬による治療が基本です。
胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬 PPI という薬が使われてきましたが、最近は PPI より作用が強く即効性のある P-CAB カリウムイオン競合型アシッドブロッカーも使われています。
薬物治療により症状が治まっても一般的に胃潰瘍が治るまでには2ヶ月程度かかるので自己判断で薬の服用中止せず医師の指示に従うことが大事です。
潰瘍からの出血がある場合出血を止めるために内視鏡治療が行われます。
内視鏡治療では入院が必要で出血が止まるまでの数日間は絶食します。 血が止まった後は胃酸の分泌を抑える薬を服用します。状況にもよりますがおよそ1-2週間ほど入院期間がかかります。
予防するには
ピロリ菌感染そのものを予防する方法は残念ながらよく分かっていません。
口を介してうつるとされているので、強いて言えば家族内でも歯ブラシなどを共有しないというのが有効かもしれません。
胃潰瘍十二指腸潰瘍の予防はピロリ菌除菌が有効です。
(その他の要因として飲酒喫煙カフェイン摂取ストレスを減らすなども重要な要素です)
ピロリ菌除菌を行うことで、胃潰瘍だけではなく胃がんの発症率も低くなるので、有効ながん予防にもなっています。
具体的には2種類の抗菌薬アモキシシリンとクラリスロマイシンを胃酸の分泌を抑える薬を合わせてピロリ菌除菌が行われます。
除菌治療の主な副作用として下痢などが知られています。
そのような場合は除菌の薬と一緒に整腸剤を内服すると下痢の予防になるので、気になる方は先生に相談してみてください。
ピロリ菌が除菌されたかどうかは除菌終了4週間をすぎてから検査で確認します。
最初の除菌療法でピロリ菌除菌が成功する割合は7〜8割です。
そのため2〜3割の方は駆除が不十分ということになります。
不十分の場合、ピロリ菌が抗生物質に対して抵抗性を持っていることが考えられるので、薬を変えて2回目の除菌 (2次除菌) をします。
具体的にはクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更して除菌をします。
ここまで行うと9割以上の方はピロリ菌駆除ができます。
これでもピロリ菌が駆除できない場合は三次除菌療法というのもあります (これは保険適用外なので自費診療になります)。三好ヶ丘メディカルクリニックのサイトにわかりやすい図があるので引用させていただきます。
治療後にも年1回の検査を
ピロリ菌を除菌すると、胃がん発症率は下がりますが全く可能性がないという状態にはならないので、除菌後も年に1回の胃カメラ検診がおすすめです。
潰瘍に罹患した場合も潰瘍瘢痕や胃がんの有無を確認するために年1回のカメラ検診が必要でしょう。
胃潰瘍の医療費の目安
あくまで目安ですが、入院せずに通院で治療をする場合、初診からピロリ菌検査そして除菌薬まで含めて5000点 (3割負担で約15000円)程度です。
年1回の胃カメラ検査を受けると1200点 (3割負担で3600円) 程度かかります。
入院して内視鏡で止血処置をする場合は、出血の原因や止血処置の方法などさまざまなケースがあるので一般的な医療費を見積もることはできません。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 黒い便が出たというのは胃や十二指腸の出血の可能性を示唆する
- 胃潰瘍の原因の主なものはピロリ菌と痛み止めの薬の成分
- ピロリ菌除菌は抗生物質を複数飲む
- ピロリ菌除菌後も年に1回は検査を