脳に転移した病巣に効率よく薬を運ぶカプセルを開発
この記事のタイトルとURLをコピーする

中枢神経系に転移したがんは、治療が難しいことで知られています。今回、中枢神経系に転移した癌に到達し治療するための薬物送達システムが開発され、Nature Biomedical Engineering誌に報告されました。原題は「Sustained delivery and molecular targeting of a therapeutic monoclonal antibody to metastases in the central nervous system of mice」です。

中枢神経に転移したがん細胞は血液脳関門のため薬が効きにくい

脳は血液脳関門により守られている

すべての癌の約15%から40%が脳を含めた神経系に転移します。

神経系に転移すると、治療法の選択肢や、効果が得られる患者も限られてします。

治療が効果的でない理由の1つは、有害物質が脳に入るのを防ぐ自然の防御システムである血液脳関門に阻まれ、多くの薬物が中枢神経系に転移したがん細胞に到達できないからです。

血液脳関門を通るカプセルを開発、薬剤を脳に運ぶミサイルとなるか

薬を脳に届けるカプセルを開発

がんの治療薬を中枢神経系に運ぶ血管を作るために、直径約1 nm (ナノメートル, 10億分の1メートル) のカプセルを研究者らは製作しました。

紙の厚さは約10万 nmなので、紙よりもずっと薄いカプセルです。

カプセルは2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと呼ばれる物質でコーティングされていて、この物質が血液脳関門によってブロックされる可能性は低く、カプセルが神経系に転移した癌細胞に接近すると治療薬を放出できるようにした

研究者らはこのナノカプセルに癌治療薬リツキシマブを充填し、中枢神経系に転移した白血病の一種であるヒトB細胞リンパ腫のマウスに投与し、4カ月間にわたって腫瘍を追跡したところ、中枢神経系に転移したB細胞リンパ腫はすべて排除されたという。

ヒトを対象とした試験を含めさらなる研究が進められているが、このカプセルは中枢神経系に転移した癌の治療薬としてすでに承認されている他の薬剤も運べる可能性があります。

このアプローチは、中枢神経系に転移する乳がん、小細胞肺がん、メラノーマなどだけでなく、原発性脳腫瘍にも有用であるかもしれません。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • 血液脳関門により多くの薬は脳には到達できない
  • 紙より薄いカプセルを特殊な物質でコートすることで脳に到達できるカプセルを開発した
  • このカプセルにより、脳に転移したがん細胞に薬を効率よく届けることができるかもしれない

今日も【医学生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

この記事のタイトルとURLをコピーする
生命医学の知識や進歩を無料のニュースレターで

がんをはじめとする病気やよくある症状などの医学知識、再生医療などの生命科学研究は、研究手法が大きく前進したこととコンピューターの発達なども相まって、かつてないほどの勢いで知識の整備が進んでいます。

生命医学をハックするでは、主として医師や医学生命科学研究者ではない方や、未来を担う学生さんに向けた情報発信をしています (より専門的な内容はnoteで発信中)。

月に1回のペースで、サイトの更新情報や、それらをまとめた解説記事をニュースレターとして発行しています。メールアドレスの登録は無料で、もちろんいつでも解除することができます。

サイト名の「ハックする」には、分かってきたことを駆使し、それを応用して、病気の治療や研究などにさらに活用していこうという意味があります。

生命医学について徐々に解き明かされてきた人類の英知を受け取ってみませんか?

こちらの記事もいかがですか?
ブログランキング参加中 (クリックしていただけると励みになります)