2000年代になり、ますます強力になってきた遺伝子操作技術によって、人間の腸から海水に至るまで、あらゆるものから微生物のDNAが発見されてきました。
しかし研究者たちは、微生物が育つ複雑な自然環境を研究室で模倣するのが難しいので、大部分の微生物は培養できない状態が続いていました。
今回Nature Biotechnology誌に報告された論文「Targeted isolation and cultivation of uncultivated bacteria by reverse genomics」では、新たな「逆ゲノミクス」戦略が提案され、この問題を克服しました。
微生物の培養は難しい
新たな微生物が大量に見つかるのは、DNA塩基配列の研究からです。DNA塩基配列の研究では、1つの細菌だけを分離することもできるし、極端な場合には、環境の中にあるすべての遺伝物質を調べることもできます。
しかし、実験室では新しく見つかった微生物を培養することができないため、その微生物についての研究がなかなか進みません。
特にヒトの腸には1000もの微生物種が存在していて、それらの腸内細菌叢の組成が変わることで病気にも大きく関わっていることが次々に明らかになってきています。
今回研究者たちは、主にヒトの口腔内に生息する10種類近くの細菌のうちの1つで、TM7と呼ばれる糖化細菌 (Saccharibacteria) を研究対象としました。
この菌は口の中の微生物の1%にも満たないため、細菌を他から分離して増殖させることはこれまで難しい問題でした。
逆遺伝学解析により糖化細菌の培養条件を見出した
研究者らはまず、細胞の表面に突き出ているタンパク質をコードしていると思われる、さまざまな糖化細菌の遺伝子を探しました。
他の細菌と比較することで、研究者らは最も強い抗体反応を引き起こすと思われる表面タンパク質を同定しました。
これらのタンパク質断片をウサギに注射した後、ウサギが作った抗体を精製し、蛍光標識した後で、唾液と混合することで、唾液の中にごく少ししかいない糖化細菌を取り出すことに成功しました。
これらの細菌をさまざまな実験用培地に入れ、最終的には、細菌の増殖を可能にする条件を見いだしたのです。
この研究の将来展望
多くの微生物を培養する上で重要な障害となるのは、他の微生物によって、今調べたい微生物の増殖が抑えられたり刺激されたりすることがあるのに、その情報を誰も知らないことです。
そこで、標的微生物を分離できればその微生物が繁殖する条件を探索できるようになるというわけです。
リバースゲノミクスというのは、遺伝子 (ゲノム)をまず先に調べ、その情報を使って表現型 (この場合は培養条件) を調べるというアプローチですが、この方法は他にもこれまで培養できなかった微生物を分離して増殖させることができる可能性があります。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 微生物の培養条件を見つけるのは難しい
- 遺伝情報をコンピューターで調べることで、分離に使えるタンパクを先に見つける
- 逆遺伝学を使った微生物培養法の同定は他の細菌にも使える
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