生命科学系の研究を始めようとした時に最初にとまどうことの1つは、どのようにして研究の情報を得ればいいのか、ということです。
この記事では、そんな学生さん向けに、チェックしておくべき有名な学術雑誌と、日本語の情報源を紹介します。
この記事の内容
まずはインパクトファクターが高い雑誌をチェックする
他の業界と同じく、科学界にも「よく読まれる学術誌」とそうでない雑誌があります。雑誌の数は1万以上あるので、可能であればいっぱい読まれる雑誌に掲載してもらいたいと研究者は考えています。
「よく読まれる学術誌」の論文は、「よく引用される」傾向があるので、その雑誌に掲載された論文が平均してどれくらい引用されるかを表すインパクトファクター (IF) が高くなります。
IFが高い雑誌は、紙面の都合で少ししかない枠を多くの研究者が争うので、競争倍率が高くなり、必然的に高インパクトの研究が掲載されることになります。
IFが10を超える雑誌は全体の1%しかないので、「準一流」以上の雑誌です。IFが一桁後半 (IF6-10) のものは全体の5%しかない「有力誌」です。
まずはIFが高い「よく読まれる学術誌」をチェックするといいでしょう。
御三家
科学全部の雑誌としてNatureとScience、それに生命医学系に特化したCellの3つは、頭文字をとってCNSと呼ばれています。
CNSは医学用語で中枢神経という意味ですが、まさに生命医学研究の中枢に位置するトップジャーナルです。
これら御三家に一度でも論文を掲載したいとほとんどの研究者は思っています (が、一生掲載されないことの方がずっと多いです)。
Natureは木曜、Science, Cellは金曜に更新されています (Cellは2週間に1回)。
筆者はこの3誌にはいずれも論文投稿した経験がある (残念ながら査読されたものの掲載には至りませんでしたが)ので、それについては機会があれば別の記事に書きます。
Nature (IF=43.1)
Science (IF=41.0)
Cell (IF=36.2)
姉妹誌
Nature, Science, Cellの関連誌を姉妹紙といいます。
広範な領域を扱う御三家には劣りますが、それぞれの少し限定的な分野においては世界を牽引するトップジャーナルです。
このクラスに複数の論文を持っていれば、若くして教授になることも可能でしょう。
Natureの姉妹誌
Nature系の姉妹誌は複数あるので、生命医学分野のものに限定して紹介します。
Nature Biotechnology バイオテクノロジー分野 (IF=31.9)
Nature Cancer がん分野 (2020年1月創刊)
Nature Cell Biology 細胞生物学分野 (IF=17.7)
Nature Chemical Biology 化学生物学分野 (IF=12.1)
Nature Genetics 遺伝学分野 (IF=25.4)
Nature Immunology 免疫学分野 (IF=23.5)
Nature Medicine 実験医学分野 (IF=30.6)
Nature Metabolism 代謝分野 (2020年1月創刊)
Nature Methods 実験手法分野 (IF=28.5)
Nature Microbiology 微生物学分野 (IF=14.3)
Nature Structural & Molecular Biology 構造生物学分野 (IF=12.1)
Scienceの姉妹誌
Science Translational Medicine 実験医学分野 (IF=17.2)
Science Immunology 免疫学分野 (IF=10.6)
Cellの姉妹誌
Cancer Cell がん分野 (IF=23.9)
Cell Stem Cell 幹細胞分野 (IF=21.5)
Molecular Cell 分子細胞生物学分野 (IF=14.5)
Immunity 免疫学分野 (IF=21.5)
Cell Metabolism 代謝学分野 (IF=22.4)
Cell Host & Microbe 微生物学分野 (IF=15.7)
Cell Systems システム生物学分野 (IF=8.6)
準一流誌
姉妹誌ではないが、概ね2桁のIFを持つ雑誌は準一流誌と呼ぶことができるでしょう。
生命医学に関するものではこのようなものがあります。
Cancer Discov. がん分野 (IF=26.4)
Blood 血液学分野 (IF=16.6)
Science Advances 科学全般 (IF=12.8)
J. Clin. Invest. 実験医学分野 (IF=12.3)
Nature Communications 科学全般 (IF=11.9)
J.Exp.Med. 実験医学分野 (IF=10.9)
PNAS 科学全般 (IF=9.6)
このクラスにコンスタントに出せていれば一流の科学者です。
中堅有力誌
IF 6~10前後の雑誌が該当します。このクラスの雑誌にコンスタントに論文を発表できていれば、研究者としてやっていくことは難しくないでしょう。
とはいえこのクラスまででも全体の5%しかありません。上位5%に入るインパクトと研究の質が要求されます。
代表的な雑誌を紹介します。
Nucleic Acid Research (IF=11.1)
Current Biology (IF=9.2)
Genes & Development (IF= 9.0)
EMBO Reports (IF=8.4)
Cancer Research (IF=8.4)
Cell Reports (IF=7.8)
eLife (IF=7.6)
Oncogene (IF=6.6)
EBioMedicine (IF=6.6)
JCI Insight (IF=6.0)
ACS Synthetic Biology (IF=5.6)
日本語で読める情報源
学術論文は英語で書かれていますが、トレンドをわかりやすく日本語で解説してくれているものもあります。
ネイチャーアジアは、Nature誌にでた論文のアブストラクト (概要) を和訳してくれています。やや翻訳がイマイチですが、トップジャーナルの論文を日本語でチェックできます。
ネイチャーダイジェストは、同じくNature誌に掲載された記事を編集部が選び和訳して提供してくれています。有料ではあるものの、学術研究機関なら購読していることも多いのではないでしょうか?
必ずしも生命科学に特化しているわけではありませんが、科学界のトレンドを追うことができます。
Science誌も日本語紹介記事があります。
少し前は、新着論文レビューという、一流雑誌に掲載された論文を著者である日本人自ら解説するサイトがありましたが、残念ながら人材不足のため更新を終了してしまっています (とはいえ2018年以前の論文紹介記事は今でも閲覧できます)。
実験医学という毎月1回発行される雑誌は、その分野の第一人者が近年の研究の流れをわかりやすく解説しています。
一般の方向けの科学雑誌
最後に、一般の方向けの科学雑誌を紹介します。
Newtonという雑誌はカラフルで分かりやすい図を多用して難しいことをわかりやすく紹介してくれています。毎月発行され、それぞれのテーマに沿った内容がまとめられています。
日経サイエンスは、少し硬派な雑誌ですが、より専門的なことを一般の方向けに平易な言葉に変換して書かれている雑誌です。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 基本的には「よく読まれている」雑誌をチェックする
- IF 1桁後半はトップ5%しかない
- 日本語で書かれた情報源も有効活用
今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。