【参加報告】第42回日本分子生物学会年会
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日本分子生物学会とは

日本分子生物学会は、生物系の中では最も大きい学会で、日本国内・海外をあわせて13,000名ほどの会員がいます。

その多くは国内の大学等の研究機関に務める研究者です。

毎年1回、11月下旬から12月上旬頃に全国集会が開催され、研究発表や交流の場となっています。
2019年は12月上旬に福岡で第42回日本分子生物学会年会が行われました。

年会の概要

生命医学全領域の研究者が集まるので、その発表演題も多岐にわたり、また同じ時間帯に多数の演題があるので、ほとんどの発表は残念ながら聞くことができません。

聞くことができた発表の中で印象的だったものはこちらです。

生命のロジックに迫る機械学習
Opening a new horizon for drug discovery through whole animal chemical biology (化学生物学による創薬)
Metabolic dynamics for cancer cell plasticity and fate decision (がん細胞の代謝)
Augmented Cell Engineering (超細胞工学)

順番にいくつか紹介します。

生命のロジックに迫る機械学習

生命のロジックに迫る機械学習は、1日目の午後に開催されたセッションです。

生命科学データ科学や機械学習法が次々に現れており、このセッションでは最先端な技術を紹介するという趣旨で行われました。

例えば「ベイズ統計であぶり出す生物形態のデザイン原理」では、特に蝶に着目して生物がどのように進化してきたのか、どういう順番で羽の模様などを進化の過程で獲得してきたのかを、それぞれの部分をパーツとしてみなすことでベイズ統計を使ってして進化を類推するという研究でした。

「多細胞上皮ダイナミクスを司る支配方程式のデータ駆動的解読」という演題では京都大学のチームが細胞の移動に関わる分子が持つ特性を特に物理学の観点から組織的に解釈するという生物物理学の演題を聞くことができました。

このような従来の生命科学とは異なる切り口から迫るということは今後ますますたくさんのデータが得られるようになっていくについれてどんどん必要になってく技術でしょう。

Opening a new horizon for drug discovery through whole animal chemical biology

二日目はすべてのセッションが質疑応答まで含めて英語で行われました。そのうち、どのようにして薬を開発するのかという大きな問題に対して、ショウジョウバエなどの動物モデルと化学生物学 Chemical biology という比較的新しい分野を組み合わせて 創薬の標的になる物を調べていくという手法が紹介されました。

Metabolic dynamics for cancer cell plasticity and fate decision

3日目に行われたセッションで、がん細胞の代謝に関しての最先端の成果が発表されました。

「Metabolic vulnerability in senescent cells」という演題では細胞が老化することと細胞が癌化することにはどのように違うのかということを代謝の観点から調べた興味深い成果が発表されました。

「Next-generation proteomics unveils a global landscape of cancer metabolism: Discovery of the "second" Warburg effect」では、がん細胞が酸素がある状態でも酸素がない場合のエネルギー産生法 (嫌気呼吸) を好んで使っているという100年前に見つかっていた現象 (ワールブルグ効果) の全貌を解き明かしたという内容でした。

この分野は特に次世代シークエンサーや質量分析を駆使した大規模データの扱いが必要になります。1日目のセッションとも関連しますが、今後の生命科学者はこのような大規模データの取り扱いに習熟していく必要があるでしょう。

Augmented Cell Engineering

「Augmented Cell Engineering」 (超細胞工学)は、新しい細胞を作ると言うコンセプトのもとで、新進気鋭の若手研究者が集まりました。オルガノイドと言う技術を使って iPS細胞のような万能細胞から肝臓や膵臓のような臓器を作るという先進的な研究や、 DNAバーコードという技術とCRISPR (クリスパー) による遺伝子編集技術を使って、受精卵の誕生から体ができる全過程を追うなどの野心的な取り組みも多数紹介されました。

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今後はこのような新しい技術が生命医学に新たな知見を加えていくのだと思いました。

ポスターセッションとランチョンセミナー

毎日700演題ほどのポスター発表も行われました。 ポスターの発表時間は2時間しかないので、残念ながら見ることができるポスターは700のうちのほとんどごく一部です。

逆に言えばそのごく一部のポスターの発表者の方とはたくさんの議論をすることができます。ポスター発表をする方としても、質疑応答との時間が限られている口頭発表とは違って、より濃密にディスカッションをすることができ、勉強になることも多々あります。

特に学生さんは積極的にポスター発表をする機会があるといいですね。

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ランチョンセミナーというのは主催者が昼食を用意してそれを食べながら行われる発表のことです。多くの場合は研究試薬や機器のメーカーさんが自社の製品をPRする場なのですが、それとは違って「研究室の選び方」というランチョンセミナーがあったので入ってみました。

どのようにして研究室を選ぶのかと言う問題に対して色々な考えのパネリストがディスカッションをするという方式でしたが、驚いたのは、最近の学部生さんの多くは、楽な研究室がどこかということをメインに考えていることです。

全国的に名を知られた有名大学の学生さんでもそうだと、その大学で教員を務めるパネリストの先生が嘆いていらっしゃいました。

確かに楽かどうかという基準で選ぶのは学部生さんにとっては負担が少ないのでしょうか、大学や大学院を「楽な研究室」で卒業した後に研究の世界でやっていくのは難しいでしょう。

研究室の選び方について個人的な意見は別の記事にまとめて発表しようと思います。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • 国内最大の生物学系学会に参加・発表した
  • 生命医学研究者も新しい技術と情報処理にアンテナをはる必要がある
  • 特に学生さんは積極的にポスター発表を

今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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