遺伝子治療研究の歴史は古いのですが、承認されたものはありませんでした。
アメリカで2017年に初めて承認され、日本でも2019年に遺伝子治療が承認され、近年いろいろな薬が使われるようになってきました。
この記事では承認された遺伝子治療薬をまとめます。
この記事の内容
遺伝子治療のこれまでの歴史
遺伝子治療とは、細胞に健康な遺伝子 (DNA)を挿入し、問題がある変異を起こしてしまった遺伝子を置き換える治療のことです。
このアイデアは1972年に発表され、その後の論争や治療の失敗などを経て、皮膚がんの一種に対しての最初の遺伝子治療薬が2003年に中国で承認されました。
しかし、中国以外の国々は承認せず、アメリカが遺伝子治療を承認したのが2017年になってからです。
2017年以来、承認のペースは急速に加速してきていて、特定のがんや一部のウイルス感染症・遺伝性疾患に対して、執筆時点で少なくとも9種類の遺伝子治療がアメリカで承認されています。
最初の提唱から半世紀たって、遺伝子治療の概念が現実になってきました。
この記事の残りの部分では、具体的な薬を紹介します。
正常な遺伝子を挿入する
人に無害なウイルスを使って、細胞の中に正常な遺伝子を導入する薬には、このようなものがあります。
GENDICINE (ゲンジシン)
中国が皮膚がんの一種・頭頸部扁平上皮がんに2003年に承認した、世界で初めての遺伝子治療です。
ゲンジシンは、がんと戦うタンパク質を作るための指令を持つ遺伝子を運ぶように設計されたウイルスです。
まだFDA (アメリカ) には承認されていません。
GLYBERA (グリベラ)
ヨーロッパ (EU) で承認された最初の遺伝子治療です。
重症膵炎を引き起こしてしまう可能性のある稀な遺伝性疾患、リポ蛋白リパーゼ欠損症を治療するために、リポタンパク質リパーゼ遺伝子を筋肉細胞に入れるという薬です。
しかし、リポ蛋白リパーゼ欠損症の患者さんはとても少ないので、製薬会社が薬の販売を打ち切ってしまいました。
KYMRIAH (キムリア)
キムリアは、白血球のがんであるB細胞リンパ芽球性白血病 (B-ALL)の患者さんを対象に開発され、2017年にアメリカ、2018年にヨーロッパで承認されました。
2019年には日本でも承認されています。
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LUXTURNA
この薬は、極めてまれな遺伝性失明の病気 (両アレル性RPE65変異関連網膜ジストロフィー) を治療するために、2017年にアメリカ、2018年にヨーロッパで承認されました。
光を電気信号に変換し、視力を回復させるのに必要なタンパク質を作るような遺伝子を目に入れる治療です。
IMLYGIC
手術したが残念ながら再発してしまった皮膚悪性黒色腫 (メラノーマ) という病気に対しての薬で、アメリカ・ヨーロッパ・中国で承認されています。
ウイルスを使ってがん細胞の中に遺伝子を注入し、免疫反応を刺激してがん細胞を殺すタイプの薬です。
STRIMVELIS (ストリムベリス)
アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA-SCID)と呼ばれるまれな遺伝性の病気により、重度の免疫不全症になる患者さんがいます。
この病気の患者さんは、健康な白血球に不可欠なADA酵素を作ることができません。
2016年にEUで承認されたストリムベリスは、患者さんの骨髄から採取した造血幹細胞 (血液の大本の細胞)にADAを産生する遺伝子を導入した後に、その細胞を患者さんの血流に戻し、ADAを産生できる正常な白血球を作るようにするという治療です。
YESCARTA
大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) を治療するために開発されたYescartaは、2017年にアメリカ、2018年にEUで承認されました。
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CAR-T細胞療法として知られるアプローチで、キメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれる蛋白をコードする遺伝子を患者さんのT細胞に導入します。
この細胞を患者さんの体内に再度入れることで、CARは血流中のがん細胞に結合して死滅させることができます。
ZOLGENSMA
2019年にアメリカは、2才未満の脊髄性筋萎縮症という病気を対象にZolgensmaを承認しました。
この病気の原因遺伝子であるSMN遺伝子を、患者さんの神経 (運動ニューロン) に入れる治療です。
ZYNTEGLO (ジンテグロ)
2019年にヨーロッパで承認されたβサラセミアという血液の病気に対する治療薬です。
この病気は、赤血球中にあって酸素を運搬するヘモグロビンの産生能力を低下させ、致命的な貧血を引き起こします。
患者さんから採取した造血幹細胞に、ヘモグロビンを作る正常な遺伝子を入れ、その後戻すことでヘモグロビンを正しく作ることができる赤血球を増やすという戦略です。
RNA干渉による治療薬
RNA干渉とは、標的の遺伝子からできるRNAに結合し、それらを効果的に不活性化することができるという仕組みでノーベル賞も受賞しています。
これを応用した治療薬があります。
EXONDYS 51
Exondys51は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーという病気の治療を目指しています。この薬は、デュシェンヌ型の患者さんの約13%に有効です。
DEFITELIO
DEFITELIOは、骨髄移植を受けた患者さんの重症肝静脈閉塞症に対する治療薬として2017年にアメリカおよびEUで承認されました。
KYNAMRO
2013年にアメリカで承認されたKYNAMROは、低密度リポタンパク質(LDL)の生産をするタンパク質をシャットダウンする薬です。
皮下に注射し、とてもコレステロール値が高い患者さんのLDL値を下げるために使われます。
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SPINRAZA
2016年にアメリカで承認され、脊髄性筋萎縮症という神経の病気に対する最初の遺伝子治療薬となったのがSpinrazaです。
MACUGEN (マキュジェン)
加齢黄斑変性は60歳以上の方の失明の主な原因です。血管が漏れて網膜の中心部が劣化することがその原因です。
アメリカで承認されたマキュジェンは、これらの血管が網膜の下で成長するのを抑えることで、加齢黄斑変性を治療します。
関連サイト・図書
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 約半世紀の期間を経て、遺伝子治療が承認され始めた
- 正常な遺伝子を入れるというのが基本的な戦略
- 日本でも承認された遺伝子治療薬がある
今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。