いろいろな遺伝子検査が近頃盛んに行われていますが、そもそも遺伝子はどのように子孫に伝わるのでしょう?
この記事では、耳垢の遺伝子を題材にして、中学や高校の理科で習うメンデルの法則を解説します。
優性・劣性遺伝子とは
生命体の設計図であるDNAの入れ物が染色体です。
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どのようにして子孫に自分の特徴 (形質) を伝えるのか、染色体に注目して見てみます。
精子の中には父親の染色体があり、卵の中にも母親の染色体があります。
これらが受精して受精卵となった後、分裂して子供になるわけなので、子供の細胞は父由来と母由来の両方の染色体 (相同染色体)があります。
形質といっても漠然として少し難しいので、ここでは例として耳垢について考えてみます。カサカサした耳垢(乾性)とそうでない耳垢(湿性)という2種類の形質があり、これは遺伝子によって決まっています。
父親由来の染色体の中に乾性の遺伝子が、母親由来の染色体の中に湿性の遺伝子があれば、その子供は両方の形質の遺伝子を持つことになります。
では子供の耳垢はどうなるのでしょうか?
この場合、湿性の耳垢になります。
実は遺伝子の働き方には強弱があり、強いほうの遺伝子だけが働くという特徴があるのです。
耳垢の場合は、湿性の遺伝子のほうが強いため、両方あっても湿性の遺伝子だけが働きます。
このように、その働きが現れるほうの遺伝子を優性遺伝子、働きが出ないほうの遺伝子を劣性遺伝子 といいます。
これはあくまで相対的な比較であり、その形質が優れているとか劣っているとかいう意味ではありません。
実際、日本遺伝学会は優性を「顕性」、劣性を「潜性」という表現に変更することを決定しました。効果が現れる方を顕性遺伝子、隠されてしまう方を潜性遺伝子とする方が、確かに意味を反映していますね。
優性 (顕性)遺伝子は黒い下敷き、劣性 (潜性) 遺伝子は透明の下敷きに例えてみるといいかもしれません。
黒い下敷き2枚重ねると全体としては黒、
透明な下敷き2枚重ねると全体としては透明になりますが、
黒い下敷きと透明な下敷きを1枚ずつ重ねると全体としては黒になります。
しかし決して透明の下敷きが黒い下敷きに「劣っている」わけではありませんね。
遺伝子の分配
では、この耳垢が湿性の子が成人し、耳垢が乾性のパートナーとさらに子供を作ったときにどうなるかを考えてみます。
配偶子 (精子・卵子) を作る時は、自分が両親からもらっているペアの染色体(相同染色体)を分離し、どちらかを配偶子に分配します (このような分裂の仕方を減数分裂といいます)。
耳垢が湿性の子は、「湿性の遺伝子」と「乾性の遺伝子」両方を実は持っていて、これらをランダムに配偶子に分配するので、できる配偶子も「湿性の遺伝子」と「乾性の遺伝子」の両方があります。
一方のパートナーは、耳垢が乾性なので、相同染色体はどちらも乾性です (2枚重ねて透明になるのは両方の下敷きが透明の場合だけでしたね)。
つまりパートナーからできる配偶子は必ず乾性の遺伝子を持っています。
この2人の配偶子の組み合わせはどうなるでしょうか?
パートナー「乾」 | パートナー「乾」 | |
子「湿」 | 湿乾 | 湿乾 |
子「乾」 | 乾乾 | 乾乾 |
受精卵はこのような組み合わせのどれかになり、結果的に湿乾か乾乾の2種類ができることになります。
つまり、この孫の場合、湿乾で湿性の耳垢になるか、乾乾で湿性の耳垢になるか、2:2で五分五分になります。
遺伝子記号
ここまで乾性とか湿性とか書いてきましたが、いちいち大変です。そこで考えられたのが遺伝子記号です。
優性遺伝子をアルファベットの大文字、劣性遺伝子を同じアルファベットの小文字で書きます。
例えば、(優性である)耳垢が湿性の遺伝子をAとすると、(劣性である)乾性の遺伝子をaと書くことになります。
先ほどの耳垢が湿性の子が持つ遺伝子はAa, そのパートナーが持つ遺伝子はaaと書くことができます。
さっきはパートナーがaaだった場合に孫は湿性と乾性が1:1になるということをみてきましたが、もしこのパートナーもAaだったら孫はどうなるでしょうか?
パートナー「A」 | パートナー「a」 | |
子「A」 | AA | Aa |
子「a」 | Aa | aa |
このようになり、孫はAA: Aa : aa = 1:2:1の割合でばらけることになります。
ここでAが優性でありAaはAの形質が出ることを考えれば、孫の耳垢について
湿性:乾性 = (AA+Aa) : aa = 3 : 1
となり、孫のうち75%は湿性の耳垢を持つと計算されます。
ここでは耳垢を題材にみてきましたが、これは他の形質についても当てはまります。
例えば一重か二重かというのも同じように決まっていますし、それぞれの形質はお互いに無関係に動くため、「湿性の耳垢」で「二重」になる割合なども計算できます。
メンデルの法則
最後にメンデルの法則について紹介します。
これまでみてきたことは、もともとはメンデルという人によって19世紀後半に見つけられていました。
メンデルは、明らかに対照的な形質を持ったエンドウを育てる実験を修道院の庭で行い、3つのことを発見しました。
分離の法則
独立の法則
優性の法則
優性の法則は、遺伝子には強さがあり、強い方しか現れないということです。
耳垢の湿性と乾性が一緒になった時には湿性になるのと同じように、エンドウ豆の「緑色」と「黄色」の遺伝子は緑色の方が優性になります。
分離の法則
分離の法則は、子供では湿性になるのに孫の代には乾性になることもあるということと同じで、劣性の形質が後の代で分離して見えてくるということです。
エンドウ豆の実験では、子の代は常に緑色なのに、孫の代には黄色のものもあり、その比率は3:1でした。
独立の法則
独立の法則は、耳垢の様子と一重か二重かというように、別々の形質は別々に遺伝するということです。
メンデルはこれを豆の色と、その形 (丸か、しわが入っている)で証明しました。
関連サイト・図書
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 優性・劣性は優れているなどの意味ではない
- 両親からの染色体のどちらかをランダムに配偶子に渡す
- メンデルは3つの法則をエンドウ豆実験で発見した
今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。