高校生物の教科書によく出てくるウイルスに、T2ウイルスというものがいます。
この記事ではT2ウイルスを1つの題材に、ウイルスの基本を解説します。
ウイルスは生き物ではない
ウイルスの大きさは 約0.2 μm(マイクロメートル)です。1 ミリメートルの1000分の1がμ (マイクロ) という単位なので、これは1 mmの5000分の1のとても小さいサイズということです。
細胞1つの直径は、種類によりますが10 μmほどです。
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つまりウイルスは1個の細胞よりもずっと小さいのです。
ウイルスはそもそも生き物ではありません。
なぜかというと、ウイルスは細胞でできておらず、また酵素をもたず自分では代謝を行なわないことなどが理由として挙げられます。
代謝というのは、ごく大雑把にいうとエネルギーをつくることです。ウイルスは自分ではエネルギーを作れないのです。
ウイルスはエネルギーを作れないだけでなく、子孫も自分ではつくれません。
それではいったいウイルスはどのように生活し、増殖しているのでしょうか?
ウイルスの増え方
ウイルスは、実は他の生物を利用して増えています。
例えば、高校生物の教科書に出てくるT2 (バクテリオ) ファージというウイルスを考えてみましょう。ちなみにこのような形をしています。
T2ファージの場合は大腸菌を使って増えています。ウイルスが利用する生物のことを宿主 (しゅくしゅ) というので、T2ファージの場合は大腸菌が宿主です。
まずT2ファージは大腸菌に付着します。次に六角形の部分に入っている設計図(DNA)を大腸菌の中に注入します。
するとこのDNAが働き、大腸菌のシステムを使ってT2ファージの子供を作るのです。
つまり、大腸菌のエネルギーを借りて、大腸菌のもっている物質を使って、T2ファージの子供を大量に作らせるのです。
そして最後は大腸菌を破壊して、できたたくさんのT2ファージが飛び出し、それがまた次の大腸菌に付着して、というようにして増えていきます。
このように、ウイルスは最低限必要なDNAとそれを守る殻(タンパク質)以外を全部捨てた究極の自己複製体です。
バクテリオファージとは
T2ファージというウイルスを紹介しましたが、この「ファージ」とは何でしょうか?
ファージは英語ではphageと書き、「食べる」という意味です。ウイルス以外でも、例えば2016年にノーベル生理学医学賞をとった大隅良典先生のオートファジー autophagyは「自分を食べる」という意味であり、ここにもファージと似たような言葉が使われています。
バクテリア、つまり細菌を食べるから「バクテリオファージ」と名前がつけられました。少し長いので「ファージ」と省略することが多いです。
T2バファージ以外にもたくさんのウイルスがいます。それではなぜ高校生物の教科書でT2ファージが取り上げられるのでしょうか?
それはハーシーとチェイスの実験というとても有名な研究で使われたからです。
ハーシーとチェイスの実験の概略
親から子に遺伝するのはDNAです。
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しかし一昔前はタンパク質が遺伝すると考えられていました。その論争に終止符をうち、DNAが遺伝物質であることを証明したのがハーシーとチェイスという2人の研究者です。
DNAとタンパク質の原子組成を比べると、1箇所だけ違いがあります。
DNA …C、H、O、N、P
タンパク質…C、H、O、N、S
つまり、DNAはP (リン) があり、タンパクにはS (硫黄) が含まれているのです。
これらを別々に標識 (簡単にいえば別々の色を塗るみたいなイメージです) し、子孫のT2ファージが標識Pか標識Sのどちらを持っているかを調べることで、DNAとタンパクのどちらが遺伝物質なのかを調べ、DNAが遺伝するということを証明しました。
この歴史的な実験に使われたのがT2ファージだったからこそ、高校生物の教科書にT2ファージがよく登場するのです。
この実験についてはわかりやすい映像授業もあるのでご覧ください。
関連サイト・図書
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- ウイルスは単独では増殖できず生物ではない
- 細菌に感染するウイルスを特にファージという
- ハーシーとチェイスの実験によって遺伝物質がDNAであることが示された
今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。