硫安分画によるタンパク粗分画 【アセトン沈殿、TCA沈殿も】

タンパク質を精製する場合、はじめに粗分画を行う必要があります。この粗分画に昔から広く使われているのが、硫酸アンモニウム (硫安) による塩析です。

今回は、学生さん向けに硫安分画やその他の代表的なタンパク沈殿法を紹介します。

硫安分画の原理

タンパク質と水溶液の関係を考えてみます。水溶液に低濃度の塩を加えるとタンパクの溶解度は増加しタンパクがより多く溶けやすくなりますが、この現象を塩溶ということは高校の化学でもやりましたね。

さらに塩を増やすと、今度は逆にタンパクの溶解度が低下し、これを塩析といいます。 一般的に大きいタンパク質ほど塩析されやすいため、塩析を利用してタンパク質をその大きさで大まかに分画することができます。

硫酸塩やリン酸塩といった塩も高い塩析効果があるのですが、硫安は水にとても溶けやすく、タンパク質を変性させにくいなどのメリットがあることから、塩析の時に加える塩としては硫安が広く使われています。

25℃の水に100%まで硫安を溶かすと (飽和させると), その濃度は約4.1 Mになります。 多くのタンパク質は80%館和までで沈殿し、特に50~70%飽和で沈殿することが多いです。

そのため、硫安分画を行う時には、あらかじめ30~80%飽和くらいまでの間を, 10~20%飽和間隔で順番に塩析を行っていき, 目的タンパク質がどの濃度で沈殿するかを調べておく必要があります。

固形の硫安を一気に加えてしまうと、局所的に濃度が高い部分ができてしまい、本来は沈殿しないはずのタンパクまで一緒に沈殿してしまうこともあります。そのため、できれば乳鉢を使って硫安を細かく砕いてから加えるべきです。

硫安沈殿のやり方

それでは硫安沈殿の一例を紹介します。

マグネチックスターラーの上に氷水が入っているアイスバケツをおいて、そこにタンパク試料が入ったビーカーをセット

スターラーで撹拌しながら、試料1 mLにつき固形硫安0.176 gを少しずつ加え完全に溶かす (この時点で硫安30%飽和)。他の濃度にしたい時には、例えばこちらの表を参照して硫安の量を変えてください。

30分またはそれ以上放置する

ここの時間が長いほどタンパク質が沈殿しやすく、一晩放置も可能です。逆に言えば、処理時間をある程度固定しないと結果が再現しない可能性があるので注意です。


10000 g, 30分, 4℃で遠心する

上清を新しいビーカーに移し、同じようにアイスバケツの中にセット。上清1mLにつき0.062 gの硫安をゆっくり加え、しっかり撹拌する (この時点で硫安40%)

同様の操作を硫安80%まで行う

遠心後に少量のリン酸バッファーを加えてかき混ぜ、沈殿を完全に溶かす

硫安を脱塩で除くことで、粗分画が完了

塩析の方法には、例えば透析があります。クロマトグラフィーや電気泳動など、高濃度の硫安が混ざっていると邪魔な場合に脱塩が必要です。

その他のタンパク沈殿法

タンパク質は、硫安に代表される塩析以外にもいくつか異なる原理で沈殿させることができます。

有機溶媒による沈殿

有機溶媒によってタンパク質分子の表面に結合している水和水が奪われる結果、タンパク質の溶解度が減少します。

有機溶媒にもいろいろありますが、分子生物学実験でよく使われているアセトン、エタノール、プロパノール、メタノールにはタンパクを沈殿させることができます。

タンパクの種類によっても沈殿しにくいものがあり、例えば多くのタンパクは40%程度のエタノールで沈殿しますが、ヒストンに代表される塩基性タンパクは70%エタノールでも沈殿しません。

有機溶媒を使う沈殿法は硫安よりもタンパク質の変性が起こりやすいという弱点があるものの、塩を使わないため、例えば塩が邪魔をするSDS-PAGEの前の濃縮などに適しています。

いろいろな有機溶媒の中でも、特にアセトン沈殿法は比較的おだやかな方法とされています。

やり方はとても簡単で、 遠心管にタンパク試料を入れた後、その4倍量の冷却アセトンを加えよく混合し、-80℃で1時間放置 (-20℃でover nightでも可) した後、10000 gで15分遠心するだけです。

できるだけ小さいペプチドを沈殿させたいなら4倍ではなく10倍のアセトンを使う方法もありますし、逆に分子量数万以上のある程度大きいタンパクなら等量のアセトンで十分沈殿させることができます。

酸性水溶液による沈殿

タンパク質は酸性条件で失活・沈殿することが多いです。失活していいのなら、三塩化酢酸 (trichloroacetic acid, TCA) を使う方法もあり、これはもっとも回収率の高い方法のひとつとされています。

試料を遠心管に入れた後、等量の冷却した20%TCA溶液を加えよく混合し、最終濃度10%にします。15分以上 on iceで静置した後、10000 gで15分遠心します。

上清を除いた後、沈殿に含まれるTCAを除くために1 mLの冷やしたエタノールを加えよく混合し、再度10000 g, 10分遠心します。

沈殿を軽く乾燥させた後、適当なバッファーに溶かします。

水溶性ポリマーによる沈殿

ポリエチレングリコール (PEG)やデキストランなどの水溶性ポリマーは多数のOH基を持っているため水によく溶けます。

タンパク質に結合している水和水もこのポリマーに奪われ、その結果溶解度が減少して沈殿するようになります。

関連図書

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