DNA-encoded chemical libraryの将来展望 【核酸・機械学習】
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ヒット化合物同定を加速するDNA-encoded chemical libraryという記事ではDNA-encoded chemical library (DECL) の仕組みについて概説しました。この記事ではより発展的なトピックスをまとめます。

核酸ターゲット

DECLはタンパクだけでなく核酸を標的にするものも登場し始めました。例えばG-quartet-forming DNA オリゴヌクレオチドターゲットに対する DECL 選択が報告されています (Molecules 2019)。別の報告でも、低分子とRNAの相互作用を研究・同定する取り組みとして、RNAアプタマー21 (ACS Chem. Biol. 2020)に対してDECLを作用させたというものなどがあります。

この手の核酸を標的とするDECLにおいて特に考慮すべきことは、ターゲットである核酸とライブラリー中のDNAバーコード部分がハイブリダイゼーションして二重鎖を形成しないようにすることです。そのための簡単な事前テストとして、まず低分子化合物を含まないネガティブコントロールDECLで選択を実施することがあげられます。もちろん化合物がないので理想的には何も濃縮されないはずですが、何らかのバーコードがNGSで濃縮されていることがわかった場合には、バッファーの組成を変える(特に塩濃度を上げる)、標的核酸の塩基配列を変える、DECLのバーコードデザインを変えるなどの対応が必要です。

DECLと機械学習の融合

DECLに機械学習を融合させるというアプローチも試みられるようになっており、これによりDECLに含まれないヒット分子の発見が可能になりました (J. Med. Chem. 2020)。この論文において、DECLの選択によって生成されたデータは機械学習の分類器を生成するために使用されています。一度分類器ができると、これを使って市販あるいは公開されている化合物をバーチャルに評価し、目的のターゲットに結合する確率を推定することができるわけです。ただし、公開されているデータベースから発見されたヒット化合物は、化学的な新規性に欠ける場合があるという欠点もあります。

DECLの将来展望

DECL技術の開発は、新規低分子医薬品の発見という目標に端を発しています。しかし、DECLで採用されているスプリットアンドプールという方法だと、医薬品的な化学物質空間から外れた分子を生成するという好ましくない性質もあります (Angew. Chem. Int. Ed. 2012)。

また、これまでのDECLの標的分子の大部分は、可溶性の精製タンパク質でした。しかし最近、例えば細胞表面とか、あるいは細胞内のタンパクを標的にできるようないくつかの技術進歩がありました。例えば生細胞表面の膜タンパク質に対する選択 (Nat. Chem. 2021)や、DECLを単なる結合だけでなく生化学的アッセイ (ACS Comb. Sci. 2019)を含むさまざまなタイプのアッセイに応用することで、複合体のスクリーニングや細胞への浸透性などの特性を同時に調べることができるようになるでしょう。

DECLは、新しいライブラリーを容易に設計・合成できるため、必要に応じて新しい化学的空間を掘り下げるのに適しています。DECLを応用したターゲットの種類やクラスも増え続けており、DECL技術により複雑な混合物であってもそれら低分子をバーコード化し、追跡したり調べたりすることができるようになりました。DECLは堅牢で適応性の高いツールであり、現在使われている以外にも幅広い応用が可能であると期待されます。

まとめに代えて

この記事では, 創薬において近年注目されている技術であるDNA-encoded chemical libraryの将来展望をまとめました。

創薬科学ははじめてだといろいろ難解な用語が出てきますが、それらを平易に解説した入門書がこちらの本です。

また、創薬スクリーニングのノウハウをまとめたのがこちらの本で、DECLについても記載されています。

創薬研究やDECLについては、このような関連記事があるので合わせてご覧ください。

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