ヒット化合物同定を加速するDNA-encoded chemical library
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製薬においてはターゲットを調節することができる新規の低分子化合物を発見するためにさまざまな試みがされてきました。比較的最近になり、DNA-encoded chemical library (DECL) 技術が使われるようになりました。もともとそのコンセプトは1992年に登場 (Proc. Natl Acad. Sci. USA 1992) ものですが、それから15年後に学術界と産業界の双方で再び着手されはじめたものです。今では、この技術は多くの製薬会社で採用されているほか、多くの学術研究機関からも関心を集めています (Nat. Chem. Biol. 2009)。この記事ではDNA-encoded chemical libraryを概説します。

DNA-encoded chemical libraryとは

DNA-encoded chemical library (DECL) はコンビナトリアルケミストリーという数百万個の低分子を低コストで合成することができる技術を使って化合物とそのDNAバーコードを日も続けたライブラリーを作成します。下図においてバーコードの様々な色は、ライブラリ製造時に成長するDNAオリゴマーに順次追加されるDNA断片を表していて、これらのDNA断片は新たに付加した化学構造 (ビルディングブロック, 同じ色で図示)と対応しています。

DNAバーコーディングの登場、それから2005年に市販の第二世代ハイスループットシーケンサーがリリースされたことと相まって、何百万もの分子を一意にエンコードし、後で調べることが可能になりました。また、DNAバーコードはエタノールを加えると確実に沈殿し、この挙動はDNAに共有結合している低分子の性質にかかわらず変わらないという特徴もあります。

DECLを使ったセレクションでは、まずターゲットタンパク質を樹脂に固定化し、DECLとインキュベートした後、ターゲットに結合しないライブラリー分子を洗浄します (Nat. Protoc. 2016)。その後、ターゲットに結合した分子を回収し、PCR増幅して塩基配列を決定します。塩基配列が決まれば、バーコードから目的のタンパクに結合した化合物が何かということを同定できるという理屈です。
重要なことに、一般的な生化学的なアッセイとは異なりDECL選択法ではライブラリ分子と標的タンパク質が直接結合するものがとれてきます。また、ECLセレクションは、ハイスループットの生化学的スクリーニングと比較して、非常に少ないタンパク質ででき、また標的タンパクに応じた独自のアッセイ開発をすることもないほか、特殊な機器やロボットも入りません。DECLセレクションは構造的に複雑な化学空間を調べ、悪くとも1桁 uMの力価を持つヒット分子の発見ができます。

実験の概略

エンコードライブラリーの合成は、低分子化合物に連結するためのリンカー部位を持つheadpieceと呼ばれる短い一本鎖または二本鎖のDNAオリゴヌクレオチドから始まります。通常は末端にアミノ基を持つポリエチレングリコール (PEG)鎖をリンカーとして使用します。
まず、出発オリゴヌクレオチドを、使用するビルディングブロック (化合物のパーツ) と同数のチューブに分けます。ビルディングブロックをコードするDNAバーコードは、T4 ligaseによってヘッドピースにライゲーションします。ここでは、二重鎖DNAを使ったsticky end ligationと一本鎖DNAによるSplint ligation (2本の一本鎖を両断片に部分的に相補的な第3のDNA鎖の助けを借りてligationすること, たとえばこちら) を選択できます。
ライゲーションの次は溶媒交換です。各反応ウェルにエタノールを加えてDNAを沈殿させ、ペレットを新鮮なバッファーに溶かします。ビルディングブロックと新しい試薬を加え、それがリンカーに付加される。そして複数のチューブに分けていたサンプルを1つに混合し、これが1サイクルです。
3回のサイクル、それぞれで100個のビルディングブロックを使った場合、わずか300個のビルディングブロック(100+100+100)と600回の操作(300個の化学反応+300個のDNAライゲーション)で(100×100×100 = ) 106個の化合物を得ることができます。このコンビナトリアルワークフローでは指数関数的にライブラリーサイズが増加するので、3~4回のコンビナトリアルサイクルで、108~109化合物のライブラリーサイズに容易に到達することができます (Proc. Natl Acad. Sci. USA 2008)。そのため、DELにより新規の化学空間をカバーするような、あるいは希望するターゲット空間をカバーするようなライブラリーを非常に効率的に設計することが可能です。
DECLを成功させるためには、ライブラリーがカバーする化学的空間とライブラリーの品質が重要です。この2つの基準は、ライブラリ合成とビルディングブロックの選択に使用する反応に依存します。DECL合成のための反応は水に耐える必要があり、理想的には、市販の出発物質を使用し、広い基質範囲にわたって堅牢で、高い変換効率で明確に定義された生成物が得られるものである必要があります。ライブラリ設計の主力となる反応は、アミド結合形成をはじめ下図に示すようなものがあります。

まとめに代えて

この記事では, 創薬において近年注目されている技術であるDNA-encoded chemical libraryの概要を紹介しました。

創薬科学ははじめてだといろいろ難解な用語が出てきますが、それらを平易に解説した入門書がこちらの本です。

また、創薬スクリーニングのノウハウをまとめたのがこちらの本で、DECLについても記載されています。

創薬研究やDNAについては、このような関連記事があるので合わせてご覧ください。

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