食品添加物として販売されている小分子が、植物の根が早く成長するのを助けることが分かった。アメリカアカデミー紀要 (PNAS) に「β-Cyclocitral is a conserved root growth regulator」という題名で発表された。
ニンジンの色素の仲間「ベータシクロシトラル」
何世紀にもわたって、植物は葉や花など目に見えやすい部分に注目され、栽培法も改良されてきた。
それに対して根は地下にあるので、それほど注目されてこなかった。実際には、根は植物の半分を占める。
そこで研究者らは、根の発達に影響を与える植物ホルモンを見つけたいと考えた。以前の研究で、ニンジンなどに鮮やかな色をつけるカロテノイドという化合物と化学的に関連しているいくつかの分子 が重要かもしれないことが分かっていた。
カロテノイドは食品添加物として市販されている。 そこでこの研究では、約20のカロテノイドを土に加えた時の、実験植物シロイヌナズナの根への効果を調べた。
具体的には、植物が成長できる透明な寒天ゲルを用意して根を見やすくし、それぞれの化合物を加えた。
その結果、ベータシクロシトラルは際立って優れていた。根をより速く成長させ、分岐させた。実験植物シロイヌナズナだけではなく、検討したイネとトマトでも同じ効果があった。
イネの様子はYouTubeに動画が上がっている。左側がベータシクロシトラルあり、そして右側がなしの場合である。圧倒的にベータシクロシトラルありの場合の方が根が成長する速度が速いことがわかる。
ベータシクロシトラルは灌漑対策にもなる
特にイネでは、さらに顕著な効果があった。植物は塩分が多い土にも耐えることができるようになった。
畑地の灌漑により、特に頂上付近で土壌を塩分を増加させる可能性がある。研究チームは実験室でこれらの条件を模倣し、稲がどのように成長するかを見た。 ベータシクロシトラルを加えない稲では、高塩濃度の土壌ではほとんど育たなかったのに対し、加えた場合には問題なく育つことが分かった。
研究者らは、ベータシクロシトラルによって根の成長速度が早まる結果、表層の塩分が高いところを通過してより深くの塩分の少ない土に根が到達できるからではないかと考えている。
本研究の意義
ベータシクロシトラルは植物に天然に含まれるホルモンで、より健康で干ばつに強い作物を探している農家にとって有用なツールの1つとなるかもしれない。
そしてこの分子はイネとトマトという全く異なる植物でも根を伸ばすことができたので、他の作物についても有望な効果があると期待される。