細胞培養に不可欠である培地にはいろいろな種類があります。
培地をどうやって選べばいいの?
この記事では、こういった疑問に答えるために培地の基本を解説しています。
いろいろな培地
培地 (medium) を使うのは、生体内で細胞をとりまく環境である組織間液の代わりをするためです。
この培地は、血漿や組織抽出物といった天然のものを使う天然培地と、既知のものを合成して組み合わせる合成培地におおきく分けることができます。
合成培地には、いろいろなアミノ酸やビタミン、塩類、糖質などが混合されています。
合成培地の中でも、特定の細胞や組織を培養するための基礎となるものを基本培地といいます。基本培地に血清を10%程度加えたものが、現在最も広く使われている培地です。
血清については「細胞培養に使う血清の基礎知識【血清の非働化とロットチェックも】」にまとめています。
[getpost id=”4928″]代表的な基本培地には以下のようなものがあります。
イーグル培地
ハム培地
これらについて簡単に補足します。
PRMI培地
PRMI培地は、アメリカのRoswell Park Memorial Instituteという研究機関で開発され、その頭文字をとって命名されました。
特にRPMI1640培地が有名で、浮遊系細胞 (リンパ球など) の培養に広く使われています。
イーグル培地
イーグル (Eagle) はこの培地を開発した研究者の名前です。多くの付着細胞の培養に、10%血清を加えて使用されています。
BME (Basal medium Eagle’s) 培地やMEM (Minimum essential medium) 培地などもありますが、Eagleの弟子であるDulbecco (ダルベッコー) が改良したDMEM (Dulbecco’s modified Eagle’s medium) 培地が広く使われています。
ハム培地
バイオ研究でしばしば使われるチャイニーズハムスター卵巣細胞 (CHO細胞) の培養に主に使われています。
F10培地や、その改良であるF12培地などがハム培地の仲間です。
よく使われるDMEM培地の開発の概略
これらの中でももっとも代表的なDMEM培地について、その開発の概略をかいつまんで紹介します。
Eagleという研究者は、いろいろな成分が細胞株の増殖にどの程度必要かを調べ、イーグルの基礎培地 (BME, Basal medium Eagle’s) を開発しました。
さらに細胞のアミノ酸の最小必要量を検討して、13種類のアミノ酸添加濃度を決め、そこに9種類のビタミン・糖類・塩を加えて、最小必須培地 (MEM, minimum essential medium) ができました。
ここからさらに、マウス細胞に対するポリオーマウイルス感染プラーク形成能を指標として、DMEM培地を開発しています。
DMEM培地はMEMよりもアミノ酸が2倍、ビタミン量が4倍、他にもいろいろ増量されています。
培地の選び方と作り方
培養したい細胞がどのような培地がいいのかは、オリジナルの文献や細胞提供者 (ATCCやJCRB細胞バンクなど) のサイトなどで確認する必要があります。
この記事で紹介した培地に、さらにいろいろなものを添加する必要がある場合もあります。
培地は、多くの場合は市販されているので購入することができます。大きく液体培地と粉末培地があり、液体培地は購入後すぐに使用できて便利ですが高価であるのに対し、粉末培地は自分で調製しないといけないですが液体培地よりは安価です。
培地にはpH指示薬のフェノールレッドが含まれていることが多く、これが赤っぽさの原因です。
色をみることで培地のpHが維持されているかを知ることができて便利です。
注意点として、一部の実験にはフェノールレッドが含まれていない培地を使う必要があります。例えば、フェノールレッドにはエストロゲン作用があるので、エストロゲンの生理作用を調べる培養実験にはフェノールレッドが入っていない培地をつかわなければなりません。
関連図書
この記事に関連した内容を紹介している本はこちらです。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 基本培地に血清10%程度加えたものが多くの細胞株に有効
- 接着系の細胞にはDMEM, 浮遊系の細胞にはRPMIを使うことが多い
- フェノールレッドにはエストロゲン作用があることに注意
今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。