GWASデータの探し方 【遺伝子型と表現型の関係を解き明かす】
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遺伝型と疾患とのつながりを研究するGWAS (Genome Wide Association Study, ゲノムワイド関連解析) は、遺伝型を調べるためのシークエンス技術やSNPアレイの価格が下がったこともあり盛んに行われてきました。

この記事では、そのようなGWASで見つかった疾患関連SNPの探し方を紹介します。

身長・肥満はどのような遺伝子で決まっているのか

身長や体重は私達にとって最も身近な形質の1つですが、それがどのような遺伝子によって決まっているのか未だ充分な科学的な知見があるとはいえません。

身長や肥満傾向を支配する遺伝法則を見つけようと立ち上がったのが国際的なプロジェクトであるGIANT consortiumです。

その結果、機能的な解明については今後の解析が待たれるものの、これまでに数百のSNPを同定することができました。そのような研究の1つは肥満には遺伝子の影響はどこまであるのかで紹介しています。

生活習慣病と遺伝子型

生活習慣病には高血圧や糖尿病、高脂血症などが含まれますが、これらは患者さんがとても多く、将来的に心筋梗塞をはじめさまざまな病気のリスクにもなることから、多数のGWASが行われました。

2型糖尿病GWASの全SNP結果がダウンロードできるDIAGRAMや、インスリン代謝に関するGWAS結果をまとめたMAGIC、高脂血症に関するSNPがダウンロードできるGlobal Lipids Geneticsが有名なデータベースです。

糖尿病については65歳以上の3割が糖尿病! 糖尿病の基礎知識【分類と症状】、高脂血症については高脂血症 (脂質異常症) の基本【悪玉・善玉コレステロールとは】で解説しました。

血圧についてのGWASをまとめるICBP (International Consortium for Blood Pressure) もあります。高血圧の症状と原因【隠れた病気による高血圧もある】も合わせてお読みください。

自己免疫疾患とGWAS

自己免疫疾患は本来外敵を駆除する免疫系が遺伝子異常により自分自身を攻撃するようになってしまって起こる病気のことです。

その原因探索にも多くの労力が割かれてきました。そのようなたくさんの自己免疫疾患についてのGWAS結果がダウンロードできるImmunobaseや、自己免疫疾患の中でも炎症性腸疾患 (潰瘍性大腸炎やクローン病など) に特化したIBD Geneticsといったデータベースが構築され、誰でも利用可能になっています。

高齢になると発症する病気とGWAS

ここまでは現役世代でもなりうる病気に関するGWASを紹介してきましたが、病気の中には現役世代ではなく高齢者の方に多く起こるものも多いです。

例えば骨粗鬆症がその1つで、少しずつ骨がもろくなっていき骨折して寝たきりになってしまう可能性もあります。骨粗鬆症の正しい検査と最新の治療薬【骨粗鬆症の予防法も】にまとめました。

この骨粗鬆症についてのGWASをまとめたものがGenetic Factors for Osteoporosis Consortiumです。

眼科領域では、加齢黄斑変性 (AMD) という病気もご高齢の方に多く見られるもので、この病気について調べたAMD Gene Consortiumもあります。

社会問題の1つにもなっているのが認知症で、認知症の原因にもいろいろありますがその数十%を占めるのがアルツハイマー病です。アルツハイマーの研究は神経内科医や神経科学らが取り組んで来ましたが、未だ原因も治療も十分からはほど遠いです。国際的なプロジェクトでアルツハイマー病を引き起こす遺伝子を探索しようというのがInternational Genomics of Alzheimer's Projectです。

GWASカタログ

個別の病気に特化した専門的なデータベースを紹介しましたが、もちろんより多くの病気についても研究されています。

最も有名なGWAS結果の参照先はGWAS Catalogで、ありとあらゆるGWASについての結果がアップロードされています。

OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man) は遺伝病を引き起こす遺伝子とその病気についての対応関係が、専門家によるチェックを受けた上で掲載されており、研究対象の病気や遺伝子から過去の知見をまとめて調べることができます。

GWAS結果の可視化や統合解析に役立つツール

GWAS結果のダウンロード先を見てきましたが、この記事の最後にその結果を扱う便利でコマンドも不要なツールをいくつか紹介します。

LocusZoomは、ある領域内のSNPについてp値の散布図を描くことができるツールで、多くの論文で採用されています。

LD Hubは複数のGWAS結果を比較してリスクの相関関係を検討できるLDSC (Linkage Disequilibrium SCore regression) という方法を実行できるツールです。

関連図書

この記事に関連した内容を紹介している本はこちらです。

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。

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