顕微鏡の発明と科学研究への応用史 【フックによる細胞の発見】

顕微鏡は生命医学の進歩に最も貢献した発明品の1つです。

医学のほとんど全ての領域は、顕微鏡をもとに微小な世界を観察することで得られた知見がベースになっています。

この記事では、顕微鏡の発明から細胞の観察までの歴史をご紹介します。

顯微鏡の開発

目には見えない世界があるということは太古の昔から知られていましたが、その見えない世界を覗けるようになったのは17世紀になってからでした。

望遠鏡と顕微鏡です。

顕微鏡は、日本では豊臣秀吉による天下統一がなされた1590年頃、オランダのガラス職人であるヤンセン父子 (Hans JanssenとZacharias Janssen) が発明しました。2つのレンズを組み合わせた複式顯微鏡でした。めがねは14世紀に発明されているので、そこから3世紀近くたっての発明になります。

その顕微鏡をはじめて科学研究に使ったのはマルピギーで、このイタリアの先生は毛細血管を発見し1660年に報告しました。

マルピギーの発見した毛細血管は医学的な論争に終止符をうち、その功績により皮膚の層(マルピーギ層)や二つの異なった臓器(腎臓と脾臓)にあるマルピギー小体など、名前がついた構造はいろいろありますが、ここでは今回の主役であるロバート・フックに話を移します。

ロバート・フックによる細胞の発見

その後、イギリスの物理学者ロバート・フックにより顕微鏡は科学研究の道具として確立していきました。

ロバート・フックはもともと画家を志していましたが、学問の世界に転向し、当時の高名な学者達とはだいぶ遅い23才で大学に入学しました。修士号を取得した後、高校の化学の教科書にも出てくるボイルの法則の発見者であるロバート・ボイルの助手として研究活動を開始し、精密な真空ポンプなどを作ってボイルの研究を手助けしたと言われています。

フック自身の研究も認められ、多くの優れた科学者と交わり科学界での地位を築いていきました。

バネに関する法則 (フックの法則) で有名なフックですが、顕微鏡を使った研究でも活躍します。当時はもちろん今と違って顕微鏡は市販されていませんが、自分自身で精巧な顕微鏡を作り、動物や植物などさまざまなものを観察し、それをスケッチしてアトラスを作りました。

顯微鏡
(フックの顯微鏡。Wikipediaより)

その結果をまとめたのが1665年に出版されたミクログラフィア (顕微鏡図譜)で、これは人類初の顕微鏡図譜として現在でも残っています。

もともと画家志望だったこともあり、圧倒的な迫力を持つ図面は人々を驚かせました。

その中でも特に有名な1枚が、コルクの切片の観察です。フックは薄くそいだコルクの切片を観察し、そこに蜂の巣状の「小部屋」を見つけました。

コルク
(フックが描いたコルクの「小部屋」。Wikipediaより)

フックはこの「小部屋」をCellと表現しました。物理学者のフックが細胞を理解していたわけではないと思いますが、この「小部屋」こそ、結果的に細胞壁で仕切られたコルクの細胞だったことはご存知の通りです。

ちなみに、フックが見たのは死んだ細胞ですが、その後レーウェンフックが初めて生きた細胞を観察することに成功しています。レーウェンフックの顯微鏡と微生物の発見 【生い立ちのエピソードも】にまとめました。

現代では、このフックが作った顕微鏡よりも性能のよいものが1万円以下でいろいろ売られていますし、当然ながら医療検査や生命科学研究にはもっとずっと洗練された顕微鏡システムが使われています。現代の顕微鏡についても、機会があればまとめようと思います。

関連図書

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レーウェンフックの顯微鏡と微生物の発見 【生い立ちのエピソードも】

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