生命現象の多くは非常に巧妙なシステムからなっています。そのようなシステムは少々の変動にはびくともしない、頑強 (ロバスト) な仕組みになっています。
この記事では、細胞周期がいかにロバストかを、CellDesignerというソフトを使って実際にシミュレーションして確かめてみます。
CellDesignerとは
細胞内の反応をシミュレーションすると聞くとなんか難しそうですが、実際に複雑な数式やコンピュータープログラムを書かなくても、ソフトを使えばすぐに体験してみることができます。
これまでにさまざまな先駆者たちによっていろいろな反応のモデルが提唱されてきました。反応モデルの多くは、SBML (Systems Biology Markup Language) で書かれ、その代表的なものはBioModelsというところからダウンロードできるようになっています。
それぞれのモデルは物質と反応を記述しているだけの文字列ですが、それをマウスクリックで実行できるようにしたソフトもいろいろ開発され、その1つがCellDesignerというソフトです。
CellDesignerによる細胞周期モデリング
最も単純なモデルとして、M期の制御を考えてみます。M期は細胞分裂が起きますが、細胞分裂はCDKの1つであるCDC-2キナーゼの活性が高まると誘導されることが分かっています。
CDC-2 kinase濃度をM, 対応するサイクリンの濃度をC、そしてサイクリン分解酵素の濃度をXとします。
すでにこのモデルについては論文報告 (A minimal cascade model for the mitotic oscillator involving cyclin and cdc2 kinase. PNAS 1991)されており、BioModelsにも登録されているので、自分で動かしてみることは簡単にできます。
BIOMD0000000003というモデルをダウンロードします。
つぎにCellDesignerを起動し、File > Openから、今ダウンロードしたxmlファイルを読み込みます。
そうするとこのようなこのような画面になり、ここにはそれぞれの物質や反応についての詳しい説明が書かれています。
シミュレーションをスタートさせるには、メニューバーからSimmulation > Control Panelを開きます。
ここでは初期条件などを変更できますが、まずは初期値のままやってみます。下の方にあるExecuteを実行すると、すぐにその結果が表示されます。
初期値を変えてみます。例えば、サイクリンを分解する酵素Xの活性が100倍になったらどうなるのでしょうか? もともとが0.01だったので、1.00に変更してExecuteを押します。
Xの濃度を100倍にしても、ほとんど変わらないということが分かります。
このように、細胞周期は非常にロバストであることが分かります。
CellDesignerの勉強法
いろいろな設定ができるCellDesignerは、ここで紹介したこと以外にも多数の機能を備えています。それらを勉強するにはやはり自分で使ってみるというのが一番ですが、動画の時代ということもあってYouTubeに良質なチュートリアルがいろいろ公開されています。
や、より最近では
といった動画が比較的分かりやすいものです。
まとめに代えて
この記事では、細胞周期を題材にして簡単にモデリングする方法を紹介しました。
細胞の数理モデリングについては「システム生物学入門 -生物回路の設計原理-」という本がしっかりとした定評のある入門書です。きっと研究機関の図書館にはあるでしょう。
数式は苦手だが、ツールとして使ってみたいということであれば「システム生物学がわかる! ―セルイラストレータを使ってみよう― 」という初めての方向けの本もあります。
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