タンパク変異体のデザイン法

タンパク質の機能を理解する上で、あるアミノ酸を変化させたときにどうなるかを調べることはとても大事です。

この記事では学生さん向けとしてタンパク質変異体をどのようにしてデザインするのか、つまりどのアミノ酸をどのように変化させるのかについてまとめた後、実際にそれをプラスミドで作る方法を書きました。

変異体のデザイン

タンパクの機能解析を行う上で、変異体を作成することが多いです。変異体には、ある領域を取り除いた欠失変異体 (deletion mutant)と、特定のアミノ酸に置換を導入した点変異体 (point mutant)があります。

どのアミノ酸に置換させるのかは目的に応じてよく考えるべきです。

アミノ酸置換によりそのアミノ酸が持っているであろう機能を欠失させたい場合には、アラニンに置換することがよく行われています。

アミノ酸を1つずつアラニンに置換して、重要なアミノ酸を同定するアラニンスキャニングという方法があります。

セリンやスレオニンのリン酸を模倣したい場合には、リン酸化により負の電荷を持つことを考えて、酸性の側鎖を持つアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換します。

リジンのアセチル化を模倣したい場合には、リジンがアセチル化された時に最も似ているグルタミンに置換します。

リジンと同じように側鎖が正に荷電しているものの、リジンと同じ酵素では化学修飾が起こらないアルギニンに置換することもあります

これらは一例であり、そのアミノ酸に置換した理由をきちんと説明できれば、どのアミノ酸に置換してもOKです。

変異導入塩基の選び方

これまでに決定されたタンパクの立体構造はPDB (Protein Data Bank) に登録されていて、無料でダウンロードできます。

ダウンロードしたpdbファイルの表示・編集には、PyMOLRasMol, Chimeraなどのフリーソフトで行うことができます。

例えばPyMOLでは、高解像度での画像や動画の作成が可能なだけでなく、構造の重ね合わせや温度因子によるタンパク質のゆらぎの表示、さらには実際にタンパク質に変異を導入した場合の立体障害をシミュレーションするMutagenesis機能など、多岐に渡る機能があります。

プラグイン できること
APBS タンパク質表面の静電ポテンシャル表示
CASTp タンパク質表面や内部空間の表示
GROMACS 分子動力学計算ソフトとの連携

PyMOLの使い方は、PyMOL WikiBioKids Wikiにも解説があります。

他にもwebツールで直感的に表示することもできます。タンパクの構造を可視化するデータベースとwebツール 【初めてでも直感的に使える】にまとめました。
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発現プラスミドでの変異導入

発現プラスミドに組み込まれている遺伝子に置換を導入するには、インバースPCRをするのが最も簡単です。

かなり長い領域を欠失することも、タグを挿入することも可能です。

ベクターに対してインバースPCRをかけ、もともとのベクターをDpn I処理で壊した後、PCR産物をリン酸化・ライゲーションで環状にして大腸菌に導入します。

Dpn Iの認識配列はGATCの4塩基であり、理論上は256塩基に1箇所の認識配列があるので、2 kb程度のベクターでも10箇所近くで切れることになります。

Dpn IはGATCのAがメチル化されている場合にのみ切断されるのですが、PCR産物にはメチル化アデニンが存在しないため、PCR産物は切断できません。

一方でdam+の大腸菌内で増やしたプラスミドは、GATCのAがメチル化されているため、テンプレートのベクターのみ切断できるというからくりです。

遺伝子の合成方法

発現ベクターにはどのように遺伝子をクローニングすればいいのでしょうか?

古典的には、制限酵素配列をつけたプライマーを使ったPCRの後、制限酵素で消化してベクターに入れますが、近年は制限酵素によらないクローニング法がたくさん登場しています。

例えば、つぎはぎ状態になるようにプライマーをデザインし、それらを同モルずつ入れて通常のPCRを行い、そのあと反応液1 ulとって一番外側のプライマーでPCRをかけると全部がつながったものが作られます (DNAWorks: an automated method for designing oligonucleotides for PCR-based gene synthesis. Nucleic Acids Res. 2002)

制限酵素によらないクローニング法については、やや専門的になりますがクローニングの方法まとめ 【制限酵素だけではない】という記事に書いていますので興味があればご覧ください。
[getpost id=”3183″ title=”関連記事” ] 注意したいのが、生物種によって同じアミノ酸でも使われるコドンの頻度は異なるということです。例えば、アルギニンをコードするAGA, AGG, CGU, CGC, CGA, CGGの6種類のコードのうち、人ではAGAとAGGが40%を占めますが、大腸菌では8%しかありません。

人の遺伝子をクローニングして大腸菌に発現しようとしてもうまくいかないでしょう。このような時には、大腸菌で使用頻度の高いコドンに置き換える必要があります (コドンの最適化といいます)。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • タンパク質の変異箇所は構造情報を参考にして決める
  • どのアミノ酸に変化させるのかは、合理的な理屈があればどれでもいい
  • ベクターへのクローニングについては、コドンの最適化が必要

今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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