テレビのCMやスーパーなどでたまに見かける遺伝子組み換えという言葉。
この記事では、遺伝子組み換え作物の作り方とそのメリット・デメリットについてまとめました。
遺伝子組み換えとは
この製品には遺伝子組換え作物を使っていませんというようなCMを見たことはあるかもしれません。
遺伝子組換え作物(Genetically Modified Organisms, GMO)とは何でしょうか?
遺伝子組み換えとは、バイオテクノロジーの力を使って、自然界に存在しない機能をもった生物を作ることです。
例えば、虫を殺す毒素を作る作物とか、除草剤に強い作物とかがあります。
植物以外の遺伝子組み換えもあり、例えばホタルの光る遺伝子を組み込んだネズミとか、ヒトのホルモンの遺伝子をもつ大腸菌(大腸菌にホルモンを作らせ、人の治療に使います)、あるいはヒトの遺伝子をもつブタ(ブタの臓器をヒトに移植するという目的で研究されています)など、たくさんの遺伝子組換え生物がいます。
遺伝子組換えの技術を使うことで、違う生物種の遺伝子であっても自由に持った新しい生物をつくることが可能になっているのです。
遺伝子組み換えの方法
遺伝子の本体はDNAであることは別の記事に書きました。
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遺伝子組換えに必要なのは、DNAを切り貼りする「はさみ」と「のり」です。
実際には「はさみ」や「のり」の役割をするタンパク質 (酵素) を使います。
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「はさみ」に相当するのは、制限酵素 (せいげんこうそ) と呼ばれています。制限酵素という1種類の酵素しかないのではなく、これはグループの名前であり、この中に例えばEcoRIとかBamHIとかいろいろな「はさみ」(制限酵素) があります。
これらのさまざまな制限酵素は、それぞれ決まったDNA配列を認識し切断します。
たとえば、EcoRIという制限酵素は、GAATTCというDNA配列の場所を見つけて「はさみ」で切るという具合です。
制限酵素で切れたDNAの断片をつなぎ合わせるのが、「のり」として働く酵素リガーゼ (ligase) です。
まとめると、ある生物のゲノム (DNA)で欲しい部分を制限酵素で切り出し、それを組み込みたい別の配列 (ここではプラスミド) も同じ制限酵素で切った後、リガーゼでつなぎ合わせて、遺伝子組み換えをしたい生物に入れることで遺伝子組み換え作物や動物ができるというわけです。
遺伝子組み換え食品のメリット
世界で初めて商品化された遺伝子組換え作物はトマトです。
トマトが成熟すると、細胞と細胞の間にあるペクチンという物質が分解されて柔らかくなります。
このペクチンを分解する酵素を抑えたトマトがつくられたのです。この遺伝子組み換えトマトは、ペクチンが分解されにくいので日もちを大きく改善することができました。
冒頭でご紹介した、虫を殺す毒素を作る作物もあります。
例えば殺虫毒素をつくるトウモロコシは、害虫がよりつけないようになっているので、使用する農薬の量を大きく減らすことができます。
このように、バイオテクノロジーの技術を使って自然界にはない有利な性質を作り出すことができるというのが、遺伝子組み換えの一番のメリットです。
これは何も生命科学に限らず、例えば自然界には存在しないエアコンを作り出すことで夏でも冬でも室内は比較的快適に過ごせるようになりましたし、車を作り出すことで数百年前の人たちには想像もできないほど高速に移動できるようになりました。
生命科学も、これらと同じようにより便利なものを作るという動きがあり、その1つが遺伝子組み換え技術なのです。
遺伝子組み換え食品のデメリット
しかしいいことばかりではありません。
例えばエアコンにせよ車にせよ、たくさんの温室効果ガスを排出する結果、地球温暖化と異常気象が問題になっています。
それと同じように、遺伝子組み換えにも問題があります。
例えば、先程のトウモロコシの例で言えば、虫を殺すような殺虫成分が人体にも入ってくるということになりますし、それを長期間摂取するとどのような影響があるのか、生態系への影響はないのかなどはまだまだよく分かっていません。
遺伝子組み換え技術は1980年代に作られました。つまり、どんなに「歴史がある」遺伝子組み換え作物でも、たかだか数十年の歴史しかないのです。
生態系は何百年・何千年もかけてゆっくりと進化しています。遺伝子組み換え作物がもたらす影響は、現時点では歴史が浅すぎて知りようもないのです。
さらに、DNAを操作する技術を手に入れても、DNAのどの部分がどう働くのかはまだまだ未知です。
例えば、人の遺伝子配列を全部読んでも、その人の身長や体質は現時点ではほとんど言い当てることはできません。
まだまだ浅い段階にしか生命科学の水準が到達していないのに、遺伝子をいじるという究極の神の技術を手に入れてしまったということです。
最近は、CRISPR (クリスパー) という、よりピンポイントでゲノム (遺伝子) をいじることができるようにもなりました。
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常に技術の動向を追いかけ、メリット・デメリット両方を考え続けることが大切です。
関連サイト・図書
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 遺伝子組み換え技術により、違う生物が持つ特性を身につけることができる
- 遺伝子組み換えには長期的な影響が不明瞭などの問題点もある
- 常に技術に目を光らせ、メリット・デメリットを考えるのが大事
今日も【医学・生命科学・合成生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。